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第65話  9-2

「マツボはあの年で携帯を器用に操作していた。ゲームでもいいのか?」こんなことを考えながら、カツラはゲームコーナーで最近はやりのゲームを見ていた。視線をゲームに向けたまま横に移動して行くと、カツラの足に思い切り子供がぶつかって、子供はその反動で軽く吹っ飛んだ。 「痛ったいなぁ!」 吹っ飛んだ子供は走って前を見ずに勝手にカツラにぶつかってきたにもかかわらず、こんなふうに言ってきた。しかし、カツラが真顔で顔を向けると、ついさっきまでやんちゃな顔つきだった子供はぽかんとした。 「ここは走ってはいけない場所だ。けがをしたら危ないだろ。」 「うん...。ごめんなさい。」 「ほら。」 しゅんとした子供にカツラが手を差し伸べると、子供は少し恥ずかしそうにカツラの手を取った。  タイガたちはとうとう違う売り場の一角まで移動してきた。子供の足でここまで来られるとは思えない。 「ハチス、迷子の届けがないか受付に行ってみよう。」 「そうだな。」 ハチスはかなり焦っており言葉数が減り、いつもの彼らしくなかった。急ぎ、迷子の届け場所まで向かう。するとそこにはカツラがいた。 「カツラ、どうしたんだこんなところで?」 タイガは言い終わる前にハチスの甥、ナラがカツラの横の椅子にちょこんと行儀よく座っているのを見つけた。 「あ!」 タイガの声と同時にハチスもナラに気付いた。 「ナラっ!お前心配させんなよ!」 ナラを見つけてほっとしたはハチスはようやくカツラに視線を向けた。 「っ...!」 女?いや、男だよな?ハチスはタイガと親しそうにしている男につい目を奪われた。 「カツラ、この子、こいつの甥なんだ。ハチスは俺の大学同期で、今は職場も一緒だ。さっき偶然会って少し話していたらこの子がいなくなって。カツラが見つけてくれたのか?」 「売り場を思いきり走ってたんだ。それで俺に激突した。」 カツラはナラに顔を向けた。 「お前よかったな、おじちゃまがみつかって。」 そう言ってカツラはナラの頭に手をそっと置いた。ナラは行儀よくカツラに笑顔を向けた。その顔はまるで天使のようだ。 「おい、タイガ。」 ハチスに言われ彼に目を向けるとハチスが何を望んでいるのかがわかった。カツラを紹介してほしいのだ。 「カツラだ。今日は一緒にここに買い物に来ていて。」 タイガが自分のことを紹介していると気づいたカツラは目だけをハチスに向けた。「すごい圧だ。カツラ、店での愛想はどうしたんだ?」子供から目を離したことをよく思っていないのか、ハチスに対するカツラの態度は素っ気無かった。 「どうも、ナラが世話になったみたいで。」 「いいよ。彼にこれ、選んでもらったし。」 カツラはそう言って綺麗に包装されたプレゼントを持って見せた。 「決まったのか、なににするのか?」 「ああ、今この世代に人気のあるゲームにした。この子オススメのものだ。マツボとは年齢が同じようだし。」 「お兄ちゃん、時間あるならこのあと一緒に遊ぼ?」 なぜかカツラになついたナラがカツラを誘った。「いや、このあと俺たちは家でゆっくりと愛を...。」タイガが最後まで頭の中で言い終わる間もなくカツラが答えた。 「別にいいけど。タイガ、構わないだろ?」 え?俺とイイコトするんじゃなかったのか?タイガは自分の思い違いではなかったはずと愛想笑いを浮かべながら曖昧な言葉を発した。 「あ、うん、まぁ...。」 「やった!」 ナラは顔いっぱいに笑顔を浮かべた。 「珍しいな、こいつが人に懐くなんて。」 ハチスの言葉にタイガは反応し、彼に尋ねた。 「そうなのか?」 「甥っ子だけど、むかつくクソガキだ。さっきも逃走しただろうが。こんないい子のこいつは見たことがない。」  タイガとハチスが見守る中、カツラが手を差し伸べるとナラは笑顔を浮かべながらカツラの手をとり「この近くに広い公園があって...。」と話し始めた。 そんな二人の後をタイガとハチスは神妙な面持ちでついていった。カツラが子供好きだったと知らなかったタイガは、小さな男の子に「今日のおたのしみ」を邪魔された上、恋人を奪われ、内心少し嫉妬を感じていた。

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