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第67話 9-4

あれから二度愛し合い、カツラがタイガの顔を優しく手で撫でながら、ベッドでお互いただ見つめ合っていた。今の二人の間に言葉はいらない。こうしているだけで幸せを感じる。 タイガもカツラと同じ気持ちでいたが、頭の隅に追いやっていた気になることを思い出し口にした。 「なぁ、あのナラって子、カツラに一目惚れしたよな?」 タイガの瞳の色が一瞬だけ濃くなったと思ったら、まさかの発言にカツラは少し驚いた。 「なに言ってるんだ?相手は六歳の子供じゃないか。」 「すごいやりにくい子らしいぞ、ハチスによると。」 「そうか?接し方じゃないか?」 「カツラは子供が好きなんだな。トベラんとこのガキとも仲良くなってるし。」 「まぁ、嫌いじゃない。かわいいじゃないか。」 少し微笑みながらそう答えるカツラの美しい表情にタイガは性懲りもなくドキッとさせられ、大人しくしていた独占欲が湧き上がり、ある思いが頭をよぎった。「どうしよう。買い物のときに考えていたことを今話してみるか?」タイガはカツラに似た子供がほしいと思ったことを彼に伝えようかと迷った。「まだ籍も入れていないけど。でもゆくゆくは…。」 「どうした、タイガ?」 すぐ顔にでるタイガの様子に気付き、カツラが声をかけた。 「え?あ、うん。あのさ...。」 「ん?」 「ゆくゆくは俺たちにも子供ほしいなぁって。ははは。」 言葉に出してみるとかなり恥ずかしく、タイガは笑って照れをごまかした。 「タイガ、お前がいくら俺の中に出そうが、俺はお前の子供を産んでやることはできない。男だからな。」 タイガの問いかけにカツラが真顔で答えた。 「いや、カツラ…。」 「なんでこうぬけてんだ。そんなこと、俺だってわかってる。それともわざと言っているのか?」タイガははっきりとカツラに自分の気持ちを伝えようと体勢を変え、カツラの上になり彼の顔をしっかりと見据えた。 「カツラ。」 ヴゥゥー、ヴゥゥー、ヴゥゥー。 「あれ、お前の携帯じゃないか?」 こんな時に間の悪い、いったい誰かと思い着信を見るが知らない番号からだった。タイガが電話に出るべきか思案している間にカツラがさっとベッドから起き上がり、「シャワー浴びてくる。」と言い、タイガを一人寝室に残し行ってしまった。 「はい?」 肝心なところを邪魔されたタイガはぶっきらぼうな声で電話に出た。 「よぉ、タイガ。」 「ハチス?どうして俺の番号知ってるんだ?」 「会社のデータからな。今どこだ?ナラがぐずってさ。カツラともっと遊びたいって。」 「そんなこと知るか。今もう帰宅したから無理だ。」 「じゃ、いまから...」 タイガは一方的に電話を切り電源も切った。だいじなことを恋人に伝えようとしたところをよりによってハチスに邪魔され余計にイラついたタイガは、怒りのあまりしばらく携帯を見つめていた。ようやく気持ちに踏ん切りをつけ携帯をベッドに放り投げ、カツラのいるバスルームへと向かった。 「腹減っただろ?なに作ろうか?」  タイガがバスルームに行く前にカツラはもう汗を流し、キッチンにいた。「一緒に入ろうと思っていたのに。」素っ裸でつっ立たままのタイガを見てカツラが目を丸くした。 「なにやってんだ、タイガ?早く汗流してこい。今からすぐ作ってやるから。」 タイガはカツラに近づき背後から彼を抱きしめ唇を求めた。 「こらっ、タイガ、散々やったろ?まずは腹ごしらえ。さ、早くシャワー浴びて。」 カツラにさらっとかわされたタイガは渋々バスルームへと向かった。  翌日、タイガは会社でやはりハチスに捕まった。 「おい、昨日電話切りやがって。」 「知るか。」 「カツラだっけ?あいつの番号教えてくれよ。直接かけるからさ。」 タイガはハチスを無視して歩き続けた。最初は食らいついていたハチスも頑ななタイガの態度に根負けしたらしく、タイガがデスクに着くころには彼の姿は消えていた。「今度付きまとったらはっきりと言ってやる。カツラは俺のものだと。」タイガはそう決心し、今日の仕事にとりかかった。

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