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第69話 9-6
ハチスはあんな夢を見たせいで、その日はカツラのことばかり考えていた。「あいつが飴なんて渡すから。」ハチスは自分がノーマルであることを確かめるために友人に連絡を取った。
「なぁ、近々合同パーティとかないか?」
「おまえ、そういうのは鼻利くのな。今夜あるぜ。来るか?」
「マジっ!行く行くっ。」
ハチスは自分が女が好きであることを確認するために早速その日の夜、友人のツテで合同パーティに参加した。集まった女性たちはハチスからするとは可もなく不可もなく。
反対にハチスの外見は180センチの細身ですらっとしており、金髪にブラウンの瞳で魅力的な容姿だ。彼の目つきは鋭いが、笑うと感じが柔らかくなるので女性ウケは良かった。
今夜も何人かの女性に連絡先を尋ねられ交換もしたが、お持ち帰りをしたいと思うほどの出会いは今回の合同パーティではなかった。ハチスの頭の片隅には夢で見たカツラの艶 めかしい表情がやきついており、どうしてもカツラと女性たちを比べてしまっていた。「仕方がない、あいつはかなりの上玉だ。滅多にお目にかかれるタイプではないんだ。」ふさぎ気味で帰ろうとすると、そんなハチスの様子に気付いた友人が話しかけてきた。
「どうした?このまま真っすぐ帰るのか?」
「あ?まあな。」
「いい店見つけたんだ。行こうぜ?」
ハチスが迷っていると友人が畳みかけた。
「今日のあの子、おまえにお持ち帰りされたそうだったじゃないか。今フリーなんだろ?試しにヤッてもよかったんじゃないか?体は良さそうだったぜ。」
「おまえ、女の敵だな。そんな気分じゃねえよ。」
「よくいうぜ。しょっちゅうその日限りでお持ち帰りしていたくせによ。」
友人に肩をくまれながら話に夢中になっていると、知らぬ間に彼が行こうと言っていた店についた。
『アイビー』
本当に店なのかと思うぐらい、植物が生い茂り建物が隠されている。小さな看板があり、かろうじて店なのだとわかった。
「茶店だ。最近見つけたんだ。」
友人がそう言いながらドアに手をかけた。
「へぇ。」
なかなかいい店だ。ハチスはこの店の雰囲気が気にいった。店内はまったりとしていて不思議と落ち着き、くつろぎやすさを醸し出している。
「マスター、ホットブラック二つで。」
友人は慣れているのか、店主と思われる男性に声をかけた。
「なかなかいい店だな。しかしよく見つけたな。」
「ちょっとな。」
二人は奥のテーブル席に腰をかけた。
「で、どんなやつなんだ?」
「え?」
友人がなんのことを言っているのかわからずハチスが聞き返した。
「ハチス、今好きなやついるんだろ?おまえから合同パーティの催促がくるなんておかしいと思ってたんだ。好きなやつよりいい女、今回いなかったか?」
友人はニヤニヤ笑いながら聞いてくる。
「なっ、好きとかじゃねえし。」
「やっぱり、心当たりがあるんじゃん。」
二人のコーヒーが運ばれてきた。よい香りがする。気持ちを落ち着けるためにハチスは一口コーヒーをすすった。
「好きとかは絶対にない。夢に出てきただけだ。」
「おいおい、夢に出るって意識しないと出ねえだろ?ガチじゃねえか。で、美人か?かわいい系か?」
友人がじっと目を見て答えを催促してくるので、ハチスはたまらず呟いてしまった。
「美人...。」
「ハチスは昔からそうだよな。おまえの姉ちゃん綺麗系だもんな。姉ちゃんに似たタイプばっかり好きになるのな。で、その相手とは望み薄なのか?」
「だから違うっつてるだろっ。俺は...。」
「あっ、悪りぃ、これでないと。」
友人はかかってきた電話に出るため席をたった。ハチスは店内を見回した。「本当にいい店だ。今日はもう少しここでコーヒーを飲んでから帰るか。」コーヒーを味わい無意識に思いはまたカツラへと行きつく。数分後友人が戻ってきた。彼はなんだか急いでいるようだ。
「俺、急用できたから帰るわ。おまえ、どうする?」
「もう少ししたら帰る。」
「そっか、じゃ、お先。また話聞いてやるからな。」
やれやれと思いながらハチスは友人に手を振った。「いい店を紹介してもらえただけで今日は良しとするか。」ハチスはもう一杯コーヒーをお替りし、今日の合同パーティを一人振り返っていた。「今夜は空振りだったな。またあいつに頼んだらありもしないことで質問攻めにされるのもな…。気は進まないが連絡先を交換した誰かと一緒に過ごすべきだったか。」ハチスはメモリを確認しようと携帯を取り出した。
「あれぇ?一人?」
聞き覚えのある声に振り返る。心臓がドクンと強く鼓動を打つ。
「ここ、いいかな?」
ハチスの返事を待たずに、カツラが彼の隣の席に腰を下ろした。
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