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第70話 9-7
「なぁ、タイガ。学生時代、おまえどうだったんだ?」
「どうって?」
ソファで足を伸ばしくつろぐカツラをタイガが優しく肩もみしていた。
カツラは最近出会ったハチスがタイガの大学時代の友人と聞いて、タイガのそのころの話を聞きたくなった。寄宿学校の話はカエデと一緒に過ごした場所だったからか、タイガ本人からいろいろと話してくれた。しかし、大学時代の話は特にとりたてていうことはないとタイガは言い、カツラは詳しく話を聞く機会を失くしてしまっていた。大学は共学だったらしいから、女性と多少はなにかあったのではとミモザの件があってからカツラは気になっていた。
「合同パーティーとかさ、女の子に告られたりとかなかったのか?」
「そういうの皆無だって。俺、女性苦手だからそんなパーティーはつき合いでも行かないし。
カエデともつき合っていたんだから。」
「ふぅん。」
何度聞いてもタイガの返答は模範解答のようにいつも同じだった。
しかし、タイガの言った通りだとカツラは納得していなかった。タイガの外見は男らしいガタイの良さに優しそうな甘いルックスで、女性が好みそうな容姿なのだ。絶対になにかあったはずだとカツラはにらんでいた。「あいつは鈍いから気付いていないだけだろう。」タイガのこととなると全て知りたいと思ってしまう。相手のことを何もかも把握しておきたいと感じたことなど今までなかった。カツラにはこんな経験は初めてだった。
そんな話をタイガとした後に偶然『アイビー』でハチスと鉢合わせた。これはハチスからタイガの学生時代の情報を聞き出してやろうとカツラは得意の笑顔を浮かべ、ハチスに近づき声をかけた。
「ここ、いいかな?」
カツラはハチスの返事を聞くこともなく一方的に彼の隣の席に座った。
今夜はくらっとするような笑顔のカツラにハチスは心を奪われた。この瞬間、ハチスの時間は止まっていた。ハチスはさっきまで今目の前にいるカツラのことばかり考えていたのだ。「カツラより魅力的な女はいないか、なにも感じない女を抱いてもカツラの顔を思い出さずにすむか。」など...。偶然とはいえ自分の中から消そうと奮闘していた相手に出くわしてしまった。ハチスが戸惑うのも無理はなかった。
そんなハチスの本心を知らないカツラは呆然としたままのハチスの様子に気付き、まだ優しく微笑みかけている。
「ん?」
真顔でも人の目を惹きつけるのに十分な美しさを持つカツラである。ハチスが今目にしているカツラの微笑みは、彼が本来持つ美しさを何倍にも増幅していた。以前偶然会った時とは違うカツラの様子に「今夜は機嫌がいいのか?」とハチスは思い、すぐそばで見られるカツラの顔をマジマジと見つめた。「くそっ、美人だな。マジでタイプだ。ヤバイ…。」
「待ち合わせ?」
食い入るように自分を見つめる視線に気付いていないのか、カツラはさらっと尋ねた。
「いや、さっきまで友人がいて。この店は初めてなんだ。カツラは?」
カツラに変に思われないよう、なんとか気持ちを落ち着かせるためにハチスはゆっくりと答えた。
「俺は待ち合わせ。よく来るんだ。」
カツラの言葉を証明するようにまだ注文していないのにも関わらず、彼の飲み物が運ばれてきた。
「ありがと。」
カツラが店主ににっこりと微笑み礼を言う。ハチスは彼のやることすべてに目を奪われてしまう。今夜のカツラも黒い服の上下だった。肌寒いせいか上に白い上着を羽織っている。ハチスはこの時ようやっと気付いた。これは制服なのだと。
「もしかして、さっきまで仕事だった?」
「なぁ、ハチスはタイガと大学が同期だったんだろ?あいつ、大学ではどんな感じだった?」
ハチスの質問には答えずにカツラが逆に質問してきた。しかもタイガのことを。ハチスの怪訝な顔の表情を読み取ったのかカツラが言った。
「ハチスが先に話してくれたらさっきのおまえの質問にも答えるよ。な?」
両肘をテーブルの上で組み、姿勢は前かがみで甘えるような視線と声でカツラに言われ、まるで魔法にかかったようにハチスは大学時代、タイガを意識するきっかけになった話をし始めた。
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