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第74話 9-11
カツラは一瞬なにが起きたのか理解できなかった。ハチスに腕を掴まれて...。
今は二人でベンチに腰を掛け、カツラはハチスの深いキスをされるがままに受けている。口の中にいきなり侵入してきた舌が遠慮なく自分の舌に絡みついてくる。唇を吸われながら口腔内をあまくかき回され、頭がクラっとした。顎をハチスに固定されているから、なおさら離れることが難しかった。今何が起きているのかようやく理解したカツラは体に力を入れた。
「んんっ!」
ようやくハチスを体から引き離し長いキスから解放された。
カツラがなにか言う前に、ハチスが息を切らしながらカツラをまっすぐに見据えて一言一言嚙みしめるように言った。
「カツラ、俺、おまえが好きだ。タイガなんかに負けない。」
まさかの告白にカツラは戸惑った。ハチスの眼差しは真剣だ。深いキスの後でもありとても笑ってごまかせるような雰囲気ではない。カツラは冷静に考えハチスに諭すように言った。
「ハチス、タイガのことを意識しすぎだ。おまえとタイガは全く違う。意識することなんてないんだ。俺のことをそう思うのもタイガと俺がつき合っているからだ。」
「違う。」
「おまえ、男とヤッたことあんのか?ないだろ?女の方がいいって。」
「俺、カツラなら抵抗ない。」
「俺に抱かれる気、あるのか?きついぞ?」
「カツラがそうしたいならそうすればいい。でも俺もおまえを抱くからな。」
なにを言っても動じないハチスにカツラはお手上げというように空を仰いだ。
「さっきのキスもめちゃくちゃよかった。女とするよりも。もっとカツラとしたい。カツラも…。悪くなかっただろ?」
カツラはハチスの言葉に驚き目を見開いた。ハチスの生意気に見えがちな眼差しは今、甘えすがる子供のようなつぶらな眼差しになっていた。懇願するように見つめられカツラは戸惑った。「この変わりよう。ハチスが年上ウケするはずだ。かわいいとこあるな。でも...。」
「なにを言っても俺は無理だぞ。タイガを愛している。」
「先のことはわからないだろ?」
「俺たち、将来も約束している。今後タイガがどう思おうが俺はタイガから離れるつもりはない。」
カツラはハチスの目をしっかりと見つめて返答した。カツラの意志の固さが表情、はっきりとした口調からハチスに伝わった。「カツラはタイガにマジで惚れているのか。あんなやつのどこがそんなにいいんだ。」ハチスはまたもやタイガに敗北したのだ。今回はそもそもがタイガの恋人なのだが。
「俺のためにはっきり言ってくれているんだろ。そういうところも好きだ。会って間もないけど、おまえに惹かれっぱなしだ。今すぐに気持ちを切り替えるなんて無理だし、俺は諦めない。」
「おまえ、手のかかるガキだな。」
カツラはやれやれといった様子で軽く微笑みながら首を振った。そしていきなりハチスの腕を掴みハチスの腕時計で時間を確認した。
ついさっき自分を振った相手だが、カツラの態度に変化は見られなかった。いや、告白する前よりは距離が近づいたような?カツラにいきなり腕をとられ、ハチスの心はときめいた。ハチスの腕には男にしては細く長いカツラの指の感触がはっきりと残っている。カツラに触れられ、やはりカツラを諦められないと思ってしまった。
「俺、そろそろ戻らないと。」
カツラが立ち上がった。ハチスも立ち上がり、二人で公園を出た。
「ハチスの気持ちはわかったし、俺の気持ちも伝えたから。それから、この件はタイガにも伝えておく。秘密はできないんだ。」
カツラが微笑みながら言った。
「なんでも言うんだな。束縛されすぎなんじゃないか。」
「嫌じゃないからいいんだ。俺、こっちだから。じゃな。」
カツラはなにごともなかったかのようにそう言って去って行った。ハチスは大方フラれるだろうとは覚悟はしていたが、カツラとキスができて満足だった。同性なのに今まで経験したことのないときめきを感じていた。キスをした時にカツラからした香の記憶が甦る。するとカツラへの愛おしさが胸に押し寄せた。もっと触れたい、もっと知りたいと。しかも、カツラはキスをしたことに気分を害しているようには見えなかった。そのことがハチスに僅かな希望を抱かせた。「またしばらくは寝不足かもな。」ハチスは切ない思いと淡い期待を胸にとぼとぼと会社に戻った。
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