70 / 202

第76話 9-13

 カツラが気に入り買い出しのためによく利用している店の近くでまたハチスと遭遇した。「こいつ、なかなかしつこいな。エリカのときと違うじゃないか。」カツラはハチスが自分をここで待ち伏せしているのだと確信した。 「カツラ。」 カツラの姿に気付くとハチスはぱっと笑顔になり声をかけてきた。 「ハチス、お前ストーカーになりかけてるぞ?」 「話したくて。」 「今日は時間がない。歩きながらでいいか?」 「構わない。俺、おまえと接点ないからここに来るしかなくて。」 「俺の気持ちはかわらない。」 「わかってる。でもだからってこれで終わりって嫌なんだ。友達になってくれ。」 「え?」 カツラは立ち止まりハチスの顔を見た。彼は真剣だ。カツラとしてはハチスの第一印象は最悪だったが、こうして話してみると悪いやつじゃないと感じていた。どことなくタイガとかぶる部分もあり、弟のように思っていた。 「友達ね。」 再び歩き出した。カツラはしばし思案する。 「わかった。じゃ、友達になろう。あくまで俺の第一優先はタイガだからな。」 カツラは並んで歩くハチスを横目で見ながら答えた。カツラの返答にハチスはわかっているというふうになんども頷いた。 「じゃ、連絡先教えてくれ。そしたらもう待ち伏せなんてしない。」 「いいけど。俺あんまり返信しないから期待すんなよ?しつこくしたらブロックするからな。」 「はいはい。」 ハチスは笑顔で携帯を取り出した。そんなハチスを見て、カツラはやはりハチスのことを憎めなかった。「せめてこいつがタイガと仲が良かったらな。」無駄な希望だと思いそっとため息をついた。 「もうタイガにふっかけるなよ。俺とタイガの仲がおかしくなるようなことしたら即絶交だからな。」 「わかってるって。」 立ち止まり携帯にお互いの連絡先を登録する。ハチスは望みが叶いご機嫌だった。 「会うときはナラ連れてこい。俺はタイガを連れて行くから。」 「えっ。」 「当然だろ。二人きりなんかでは会わない。」  タイガとカツラの休日がかぶった日、カツラはタイガとハチスを引き合わせた。タイガにはナラと遊ぶ約束をしたから一緒に来いと言い、ハチスと連絡先の交換をしたことも伝えた。最初タイガは黙って連絡先を交換したことに対してむくれていたが、毎回ハチスに待ち伏せされることを伝えると渋々機嫌を直した。 「あいつ汚い手、使いやがって。」 「ほらほら、顔が怖いぞ。子供が来るんだから。」 カツラがタイガの両頬に人差し指を当て口角を無理に上げていると、遠くからナラの声がした。 「おにいちゃん!」 「ナラ、元気だったか?」 カツラは膝を折り、ナラの目線に合わせて手をふった。そんなカツラの元にナラは思い切りダッシュしその胸に飛び込んだ。 「今日はいっぱい遊ぼうね!」 「ああ。」  ナラの後ろからはハチスが不機嫌な顔でついてきていた。タイガと目が合うが、お互いむすっとして挨拶もしない。 カツラは今日は動きやすいように珍しく白いハーフパンツをはいていた。上着は爽やかなブルーで普段上下黒の服装しかみていないハチスはカツラの姿に目を奪われた。「足、綺麗だな。白いし、筋肉の付き方とか、毛、ないのか?」ナラと戯れているカツラの生足を食い入るように見るハチスにタイガが気付かないはずがなかった。 「おい。」 「あ?」 「変な目で見んな。」 「やかましい小姑だな。」 「はいはい、みんなでサッカーしよう。ナラは上手いんだよな?」  タイガとハチスの険悪なムードを感じとったカツラが二人に声をかけた。不仲な二人であったが、お互いにこいつには負けたくないという気持ちが強かったらしく、サッカーでもその後の鬼ごっこでもかなり盛り上がり、周りで見ていた見知らぬ子どもたちも巻き込んで遊ぶ結果となった。    チーム戦ではカツラと同じ組になれなかったそれぞれが、子供たちにリーダーシップを取り綿密に計画を練り、相手を負かし歓声を上げる。今日飛び入りで遊んだ子供たちもナラと同じく楽しい時間を過ごしていた。 最後は大人数でドッジボールをし、解散する時間には思い切り体を動かし遊んだ満足感で、みんなの目はキラキラと輝いていた。 「すごい楽しかった!でかいおにいちゃんもありがとう。」 子供は素直だ。ナラに礼を言われ、タイガはこの日初めて自然な笑顔を見せた。

ともだちにシェアしよう!