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第93話 10-14
「タイガ、仕事どうだ?」
「フジキさん。今週中には落ち着きそうです。」
タイガは会社の廊下でフジキに声をかけられた。フジキは心なしか表情が明るい。
「そうか。来週末とか空いてるか?」
「来週末ですか?特に何もありませんけど。」
最近、フジキからプライベートで誘われることはなかった。久々のフジキからの誘いに今回彼はどこに連れて行ってくれるのかと思い次の言葉を待った。しかし今日のフジキからの誘いは思いがけないものだった。
「実はカリンが戻ってくるんだ。次いつまたどこに行くかわからないんだが。それまでは同棲することになったんだ。この際だからカリンをみんなに紹介しておきたくて。」
「本当ですか!フジキさん、よかったですね。是非カリンさんに会いたいです。」
タイガはフジキの表情が明るい理由に納得がいった。
「カツラくんの都合も確認しておいてくれ。当日はうちで簡単な夕食会をするから。」
「わかりました。きっとカツラも喜びます。」
タイガはカツラと感じが似ていると聞いていたカリンをこの目で見てみたかった。
「カエデも招待するから。みんなで楽しくやろう。」
「そうですね。」
そうは答えたもののタイガは内心カエデと出会うことにためらいがあった。夕飯を共にしたときからカエデとは会っていない。カエデが自分のことを心配し自分のために言ってくれたことであったが、カエデの言ったことに対してタイガは思い切り反発していた。カツラもカエデに会うことをどう思うだろうか。
「カリンさんが?それは楽しみだ。」
仕事から帰り、自宅でくつろぐカツラにタイガが伝えた。
「うん。でも...。カエデも来るみたいなんだ。」
タイガが気まずそうに発した言葉にカツラは瞳を大きく見開いた。
「タイガ。おまえ、カエデと絶交するつもりか?」
「え?」
「カエデは大切な友人なんだろ。俺はおまえと別れるつもりはない。カエデがなにを言おうがどうしようが。」
「カツラ...。」
「タイガ、おまえの気持ちは?」
タイガはカツラに近づき抱き寄せた。そしてしっかり瞳を見て言う。
「俺はカツラを愛してる。カツラから離れない。」
「うん。だったらなにも問題はない。」
カツラからタイガにキスをした。
「俺たちの気持ちがしっかり向き合っていたら大丈夫。」
「そうだな。」
「そのうち気まずさもなくなるさ。俺も仲良くできるよう努力する。タイガの大切な友人だもんな。」
「カツラ。」
タイガは強くカツラを抱きしめる。
「ありがとう。」
フジキのマンションは高給取りらしく立地の良い高層マンションだ。ホテルのようなエントランスから目的の階へと向かう。
この日フジキは簡単なデリバリー料理と旨い酒を用意しておくと言っていたが、カツラはせっかくだからと手作りの料理を持参した。もちろん、この場にふさわしい酒も。タイガも手ぶらではと思い小さな花束を手にしていた。
「いらっしゃい。」
フジキが玄関からタイガたちを迎い入れた。室内からは女性の明るい笑い声がする。カリンが笑っているようだ。
マンションにしては立派な廊下を抜けると広いリビングダイニングだ。正面には大きな窓から夜景が見えていた。声をする方に目を向けると、そこにはすらりとした長い黒髪の綺麗な女性が立っていた。とても知的でありながら黒い大きな瞳は好奇心旺盛な雰囲気を感じさせる。そして彼女の隣には気まずそうに微笑むカエデがいた。
「いらっしゃい。タイガくんと...君がカツラくんね!」
カリンは無邪気に二人の名前をいい当てた。
「今夜は来てくれてありがとう。よろしくね。」
カリンはそれぞれと握手を交わした。カツラと交わすとき、彼女はマジマジとカツラの顔を見た。そしてまた「よろしくね」と言った。
フジキの言った通り、この二人はなんとなく雰囲気が似ていた。最初に与える印象は異なる二人だが、どこかしらミステリアスな感じがする。同じ黒髪、透き通るような白い肌の色のせいかもしれない。
タイガは二人に釘付けになっていたが、ふと視線を感じそちらを見るとカエデと目があった。タイガはこの間のことは気にしないように努め、カエデに微笑んだ。カエデはタイガの微笑みを目にし、ぱっと花が咲いたように微笑み返した。
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