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第95話 10-16

カエデと二人円卓に残されたタイガはこの間先に帰宅したことを詫びた。 「タイガは悪くないよ。僕が気に障ることを言ってしまったから。」 「カエデの心配してくれる気持ちはありがたい。でも大丈夫だから。」 タイガにこの間の件で一線引かれてしまったようでカエデは寂しく感じた。目の前にある酒の入ったグラスを一気にあおる。酒はアルコール度数がきつく喉がヒリヒリした。 「カエデ、無理するなよ。あまり酒強くないだろ?」 「うん、大丈夫。喉が渇いていたから。へへへ。」 早くも酒が回り始めたのかカエデは隣に座るタイガにそっともたれかかった。 「カエデ?」 「タイガ、ごめん、ごめんね。急に別れたいなんて言ってしまって。」 カエデは震える声でタイガに当時のことを詫びた。カエデとしてはまずこのことを謝らなければ、前に進めないと思ったのだ。 「そのことならもういいから。」 タイガはそっとカエデを自分の体から離した。そして言葉を続けた。 「カエデに振られていなかったらカツラに出会っていなかった。だから、もう気にしなくていいよ。」 タイガの言葉を聞いてカエデはここ最近頭を占めていることをタイガに尋ねた。 「もし...。もし僕と付き合っているときにカツラさんに出会っていたらどうなっていたと思う?」 「え?」 カエデの質問は今までタイガが考えたことのないことだった。「カエデに振られていたなっかたら...。」タイガはカエデと付き合っていた当時を思い出す。なにを言っているのか自分でも深く意識せずに言葉が勝手に口から出る。 「それは...おそらくカツラの店に行っていないからカツラには出会っていないと思う。でももし出会っていたら...。」 タイガは遠い目をしていた。 カツラを初めて目にしたときを思い出す。あの衝撃は今でも鮮やかに思い出せる。あれは特別な人がいるいない関わらずに同じ衝撃を受けるだろう。  押し黙るタイガの姿にカエデはショックを受けた。タイガはカツラを選ぶと言いかねなかった。カエデは酒を自らグラスに注ぎ、またその酒を煽る。 「カエデ。たらればの話をしてもしょうがないよ。」 「そうだね。僕の正直な気持ちは...。タイガと離れてしまって後悔しているんだ。」 俯きがちに話すカエデにタイガが言った。 「俺たち、ずっと友達だろ?」 そう、友達だ。そしてとても大切な人。なのにぼくは間違った。カエデはタイガの言葉の先に続く自分の思いを心の中で反芻した。意を決してタイガに伝える。タイガの目をしっかりと見て。 「タイガ、もう一度、僕にチャンスをくれない?」  返事に窮するタイガに潤んだ瞳で懇願するカエデはそのままタイガにキスをした。遠慮がちに。そして過去に何度もそうしたように自然と舌を口の中に入れた。  タイガはカエデの大胆な行動に驚いていた。懐かしいカエデの舌だ。しかし今では違和感を感じた。タイガはカエデの両肩を掴み、重なり絡む唇を優しく引き離した。 「カエデ、ごめん。今の俺にはカツラだけなんだ。だからこういうことには応えてやれない。」 タイガはカエデの大きな琥珀色の瞳をしっかりととらえて自分の気持ちを伝えた。カエデの瞳からは涙が一筋流れた。 「そんなにあの人がいいの?」 「うん。」 簡潔な言葉だったが、タイガの気持ちが伝わるには十分だった。 「水飲んで。アルコール薄めないと。カエデ、かなり酔ってるぞ。」 タイガは別のグラスに水を注ぎ、カエデの手に持たせた。 「フジキさんたちの様子見てくるから。」 タイガはカエデの気持ちが落ち着くまで席を離れることにした。

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