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第96話 10-17
奥行きの広いベランダは寝室にまでつながっているつくりらしい。フジキ達の声が聞こえないと思っていたら、リビングから離れた寝室側で椅子に座り三人は雑談をしているようだ。角を曲がりフジキ達の元に行く。こちら側の方が夜景が綺麗だ。気候も良いので外で飲むのは心地が良い感じがした。自分達のほうに向かってくるタイガの姿に気付き、フジキが声をかけた。
「タイガ、カエデは?」
「ちょっと酔ってしまって。今酔いを冷ましています。」
「大丈夫か?カエデ、そんなに酒強くないだろ?」
「ええ、そうなんですが。」
カツラは笑って話の行く先をごまかすタイガの様子を見、カエデと何かあったのだと気づいた。カツラとタイガの視線が重なる。タイガは真剣なまなざしでカツラに近づき彼の名前を呼んだ。
「カツラ。」
タイガはカツラのそばまで来てしゃがみ込み、椅子のひじかけに置いたカツラの手に自分の手を重ねた。そしてカツラの首元に光るネックセスチェーンに指をかけ、そのままチェーンの先にある翡翠のリングを服から引っ張り出した。
「まぁ!」
カツラの胸元から現れた翡翠のリングの美しさにカリンが驚嘆の声をあげた。フジキも初めて見るタイガとカツラの近い距離間に息を呑み、言葉を失っていた。
「フジキさん、カリンさん。突然なんですが、俺とカツラの婚約の証人になってください。」
「タイガ...。」
意表をつかれ、フジキが思わずタイガの名前を発した。カツラはじっとタイガを見つめている。タイガの行動に驚いているようだ。
「あなたたち、婚約したのね。」
カリンがタイガの気持ちを汲み取り話の続きを促した。
「はい。このリングは俺の母親の家に代々伝わるリングなんです。母は娘を産まなかったから。このリングは俺の大切な人に渡すよう幼いころから言われていて。」
タイガはカツラの瞳を見ながら話し続けた。そしてフジキとカリンに顔を向け、真剣なまなざしで話す。
「カツラにはもう気持ちは伝え了解はもらいました。フジキさんは俺の尊敬する先輩だから、この際お二人にも知っておいてもらいたくて。」
「そうか。それはいいことだな。」
事の成り行きに最初は驚いていたフジキであったが、タイガの話を聞いて穏やかな顔になっていた。
「籍はいつ入れるの?」
カリンは興味深々といった感じで尋ねた。
「俺の父が仕事で今は遠くにいるので。こちらに戻ってくる頃にはと思っています。」
「めでたいことだ。おめでとう、タイガ、カツラくん。」
「フジキさん。」
カツラは微笑みながらも照れくさそうにしている。
「うん、とってもお似合いよ、あなたたち。おめでとう。」
カリンが両手を合わせ笑顔で祝福を述べた。少し目が潤んでいる。
「カツラ、幸せになろうな。」
「タイガ。」
二人はお互いの顔を見つめ合った。カツラの美しい翠の瞳は夜景の光を受けキラキラと輝いていた。
タイガはそのままカツラにキスをした。フジキとカリンが見ている目の前で。深く舌を入れるいつも通りのキス。カツラは最初戸惑ったがタイガの気持ちが嬉しかった。カツラもタイガの思いに素直に応え、熱い口付けを交わす。
「カツラ、愛してる。」
しばしのキスの後、額同士をくっつけタイガがそっと呟いた。もう二人だけの世界だ。
すると拍手がした。はっと我に返ると二人のいちゃつきを目の前で見せつけられたフジキとカリンが笑顔で拍手をしてくれていた。
「ちゃんと証人になったからね!」
カリンは満面の笑みで二人の婚約を保証した。
「ありがとうございます、カリンさん。」
タイガは臆することなく感謝の意を伝える。カツラの目には今のタイガはとてもたのもしく見えた。
「フジキ、わたしたちも見習わないと。」
カリンは冗談っぽくフジキの腕を肘で小突いた。
「カリン。」
その後は楽しく酒を飲みながら談笑した。カツラが持参した酒は飲みやすく喉を通る度に癖になるような旨さであっという間に瓶は空いてしまった。
「こんなに美味しいお酒初めて。ぜひ店にも行ってみたい!」
「今度一緒に行こう。料理も旨いから。」
そろそろ部屋に戻ろうということで四人でリビングに戻った。カエデはソファで穏やかな寝息を立てていた。
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