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第99話 10-20

「カエデは?」 「ぐっすり眠ってるわ。お酒も入ってるから。」 フジキとカリンは寝室でひそひそと話をしていた。酒に強いフジキはこの時にはすっかり酔いは冷めていた。 「今夜はどうだった?感想は?」 フジキが今夜初めて紹介した自分の後輩たちについての感想をカリンに尋ねた。 「カエデくんは本当にかわいい。女性でも通りそうなくらい。天使みたいって例えは大げさだと思っていたけど、的を射てる。」 「タイガは?」 「彼はザ・まじめくん。今夜の婚約発表にはびっくりしたけれど。彼はカツラくんに夢中ね。」 「そうなんだ。タイガはわかりやすいから。」 フジキはタイガが人に与える印象はやはり変わらないとおかしく思えた。 「カツラくんは本当に綺麗。私と似ているなんておこがましいわ。絶世の美男子ね。」 フジキもカリンと同意見だと言わんばかりに大きく頷いている。 「少し悔しいけれど、フジキがキスしたくなるのもわかるわ。」 「おいおい、それは君と間違えて...。」 フジキが慌てて否定すると、カリンはケラケラと笑った。フジキをからかっているのだ。 「あのキスは素敵だった。フジキもそう思ったでしょ?」 「そうだな。」  カリンは二人のキスを見て羨ましいと思った。結婚は愛する人との最高の約束だ。それを誓い合う二人を目の当たりにした。自分にも隣を見ると生涯をともにしたいと思う男がいる。「私は恵まれている。とても幸せだ。」カリンはタイガとカツラのキスを見て、今夜フジキと愛を交わしたいと思っていた。しかし隣の部屋にはカエデがいる。 「カリン。」 フジキが優しくカリンの名前を呼び、キスを求めてきた。フジキもタイガとカツラのキスを見て触発されていた。 誰の目も(はばか)らずに誓いのキスをする二人は美しかった。愛し合う二人の姿にフジキも目を奪われた。そして幸運にも自分には愛する美しい女性がそばにいるのだと改めて神に感謝した。 「フジキ、カエデくんがいるのよ。」 「今夜は確認したい。俺たちの気持ちを。優しくするから。」 フジキはいつも優しい。カリンが嫌がること、困ることはしないのにそう言って懇願する姿にカリンは愛おしさがこみ上げた。自分もフジキと同じ気持ちなのだ。彼の誘いを断る理由はなかった。 「じゃぁ、静かにしましょう...ね?」  カエデが目を覚まし部屋を出るとフジキとカリンが朝食の準備をしていた。昨夜から面倒をかけっぱなしだとカエデは申し訳なく思い、慌てて手伝いを申し出た。 「じゃ、これお願いね。」 カエデの気持ちを汲み取り、カリンは遠慮なくカエデに仕事をふった。カエデはカリンの心使いがありがたかった。 朝食後、カリンは新しい職場の人たちとの打ち合わせのため出かけて行った。 「またいつでも来てね。じゃ、フジキ、カエデくんをちゃんと送ってあげてね。いってきます。」 「任せとけ。いってらっしゃい。」  フジキとカリンの二人は正に理想のカップルだ。仲の良い二人のやり取りを見て、カエデは羨ましいと思った。 タイガに振られ、カツラから勝ち誇ったようなまなざしを突き付けられたカエデは孤独感に押しつぶされそうになっていた。 恋人がいるとはいってもリョウブは自分には寄り添ってくれない。「僕は一人だ。」そんな現実をまざまざと実感した夜だった。 「カエデ、話したいことがあるのなら聞くぞ?」 さすがにフジキもカエデの様子がおかしいことに気付いたようだ。二人分のコーヒーを入れ、ソファに座るカエデの隣に腰を掛けた。 「僕...。恋人とうまくいってなくて。すれ違いなのかもわからない。彼は僕とは全く違っていて。やっぱりタイガといると落ち着くんです。自然でいられるし。でもタイガにはカツラさんがいて...。」 伏し目がちに今の気持ちを簡潔にフジキに伝えた。 「そうか。その彼とは話せているのか?」 「忙しい人だから。」 「会いに行けばいい。一度だけ。」 「え?」 「自分の気持ちを確かめに行くんだ。それから決めても遅くはないだろう?」 「でも...。」 「カエデとタイガは確かに似ている。でもタイガはもう別の道を進んでいるし。」 「婚約のことですか?」 「知ってたのか?」 「タイガから聞きました。僕、タイガを諦めきれなくて。自分が勝手だってことはわかってるんです。」 「カエデ。」 フジキはカエデを責めようとはせず、震えるカエデの肩に優しく手をかけた。

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