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第100話 10-21

「前にも話したがタイガとカツラくん、つき合うまでに苦労しているから。あの二人の仲は固いぞ。」 「わかっています。タイガにはっきりと無理だと言われました。」 カエデの告白にフジキは驚いた。「タイガははっきりと気持ちを伝えたのか。」そのあとの昨夜の婚約発表であるのなら、カエデに望みはないだろう。フジキはカエデに駆ける言葉がみつからなかった。 「そうか。」 フジキは参ったという感じで腕を組んでいる。 「まずは彼に会いにいくことだ。それからやっぱりもう一度タイガにアタックするのか。その場合は修羅場になるのは覚悟しておけよ?」 フジキは最後は冗談交じりで言い、カエデを励ました。フジキとしてはつらい立場なのだろう。  カエデはタイガを手に入れるためにはあのカツラとやり合わなければいけないことを思うと憂鬱になった。いや...。そもそもそれ以前にタイガがカツラを巻き込まないようにするのではと思っていた。カエデも昨夜のタイガの言葉を聞き頭ではちゃんとわかっている。もう過去には戻れない。タイガが生涯の相手として求め愛しているのは自分ではなくカツラなのだと。  カエデがフジキと話してから数日が経っていた。仕事でもしっかりしなければと思っているのに、集中力がなくミスを連発してしまう。いい人達ばかりだから逆に心配させてしまって気が引けた。  フジキにはリョウブに会いに行くよう言われたが、仕事を置いて会いに行く気にはなれなかった。そこまでして会いに行っても、リョウブに煙たがられそうで、それがカエデは怖かったのだ。  カエデはその日、仕事の関係で普段は立ち寄ることのない見知らぬ町に来ていた。気分を変えるいい機会だと思い、その夜一人、その町のバーに入った。 一人客なのでカウンターに腰を掛ける。なかなか感じの良い店だった。これからどうすればいいのかと出口のない迷路を彷徨っている気分に陥った。気づかないうちに酒が進んでいく。カエデが頼みもしていない酒が出された時には、意識はかなり混濁していた。 「これ?」 酒を置いたバーテンダーに尋ねた。 「あちらの方からです。」 カエデがバーテンダーのさす方に視線を向けると、高そうなスーツを身にまとった男が笑みを浮かべて近づいて来た。 「さっきから一人みたいだから。待ち合わせじゃないよね?」 男はカエデが一人であることを確認してきた。 「あの...?」 「驚いたな!君、男性かい?」 男はカエデの外見から女だと勘違いしたらしい。しかしカエデが男だとわかってからもその男はなにかと話を振ってきた。しばらく男の話を聞いていたが、意識も混濁しているカエデは適当に話を合わせ頃合いを見て店を出ることにした。彼がレストルームに向かったところでカエデは会計を済ませ店を出た。 「ちょっと待って。」 店を出たところでカエデは先ほどの男に呼び止められた。 「僕も一人だからこのあと別の場所で一緒に飲まない?話相手がほしかったんだ。君、聞き上手だから。」 男は感じの良い笑顔でカエデにそう言ってきた。カエデは男を改めて観察した。身なりはいいし変な感じはしない。 いつもならこんなことには関わらないカエデであったが、今は普通の精神状態ではないこともあり判断能力が鈍っていた。また、タイガを忘れなければという思いもカエデの背中を後押しした。カエデは特に問題はないだろうと深くは考えず、そのまま男が勧める店へとついて行った。 男は絶えず新しい話題を振りカエデを誘導する。いかがわしい店が立ち並ぶ路地に連れてこられたことにカエデは意識が回らない。 「ここだよ。」 男が勧める店がある建物は陰気な雰囲気だった。しかし、酒に酔ったカエデはこの時でさえそのことに気付かなかった。 店内は薄暗く、男と同じような小綺麗な格好をした者たちが数人いた。彼らは薄ら笑いを浮かべ、カエデのことをジロジロと見てくる。あやしい雰囲気にようやく危機感を感じたカエデは立ち去ろうとしたが既に手遅れであった。カエデの様子を感じ取った男がカエデの腕を強くつかみ猫撫で声で耳元で囁いた。 「君ならいい商売ができる。」 「え?」  カエデは明瞭になりかけた意識の中でも男の言っている意味が理解できず、ただ聞き返すことしかできなかった。そのまま両脇を男たちに掴まれ、店の奥の方へと連れていかれてしまった。  そこには偉そうにソファーにふんぞり返った醜い太った男がいた。彼は下品な指輪をいくつもはめた醜い手でグラスを手に高そうな酒を飲んでいる。趣味の悪いえんじ色のスーツ、禿げた頭。明らかに裏社会で生きている人間のオーラが出ていた。 「あの、ここはなんなんですか?僕、帰ります。」 カエデはようやく帰ろうと行動に移すが、両腕をしっかりとつかまれ身動きがとれない。 「ボス、上玉でしょ?男だけど。」 太った男がジロジロとカエデを見てくる。その目で舐めまわすように見られただけで不快だった。 「かわいい顔してるな。ほんとに男か?」 すると男がいきなりカエデの股間を強く握りしめた。 「痛っ!」 カエデは痛さと恥ずかしさで何も考えられなくなった。 「しっかり男だ。」 先ほどまで感じの良かった男の笑みは今ではいやらしいひねくれた笑みになっていた。どうしてこんな男に騙されてしまったのかとカエデは心底後悔した。 「顔がよくても今みたいな声じゃ客はつかないぞ。男で抜きたい客はたくさんいるからしっかりしつけないとな?」 「なんなら今、調教してもいい。」 「おまえもスキモノだな。好きにしろ。」 カエデは自分がこれからどうなるのか、男がしようとしていることについて想像すると吐き気をもよおした。カエデの頭がパニックを起こしていると、男がカエデに向き合った。 「楽しもうぜ?」 「お願い、やめて...。」 カエデは琥珀色の大きな瞳を不安で揺らしながら男に懇願した。 「そうそう。いい顔だ。そういうかわいい声も出さないとな。」 カエデの願いもむなしく男はカエデのシャツのボタンを引きちぎり、下着のシャツを破った。両腕を掴まれているカエデは抵抗しても逃げることはできない。露わになったカエデの華奢な白い肌に男は舌を這わせた。 「いやだっ!いやだっ!リョウブ、タイガっ助けてっっ!」 カエデが泣き叫ぶと頬を思い切りぶたれた。あまりの衝撃にカエデは頭がクラクラし、抵抗する気力がなくなってしまった。

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