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第114話 シュロのできごと 5

コスプレした全員で写真を撮り、それぞれでも写真を撮る。皆、今日は違う自分になりきり、酒も入ったせいもあり楽しい時間が過ぎていった。 「カツラさん、今度俺の家に来てくださいよぉ。最高の御もてなしをしますからぁ。ね、ね?いいでしょう?」  フヨウがしつこく奴に絡んでいる。しかし奴はガン無視だ。長めの金髪を耳にかけグラスを片手に店長と話し込んでいる。髪から垣間見える白い耳まで美しいと思うのは俺だけなのだろうか。今夜は姿が違うせいで俺の気持ちもなんだか変だ。奴は宇宙人だということを忘れてしまう。 「お兄ちゃん、楽しんでる?」 「うん。みんなも楽しそうだ」 「カツラさん、よく似合ってるでしょ?」 エルムが俺に内緒話をするように耳元でヒソヒソ声で話し始めた。 「雰囲気ががらりと変わったでしょ?プラチナブロンド、絶対似合うと思ってたんだ」 「エルム。」 「あとで二人で写真撮ってあげるからね!」 エルムは勘違いをしている。男のあいつに思いを寄せるなど。しかもやつは宇宙人なのだ。店長と話し込むあいつを見る。まるで彫刻のような横顔...。しばらく見ていると店長と奴がぱっとこちらを見た。 「シュロ」 店長が手招きする。俺は渋々奴の隣の席に腰を下ろす。 「妹さんのおかげで今夜は楽しいなぁ。おまえ、飲んでるか?」 「はい」 「おまえ、トベラさんのとこには行ったことないよな?」 トベラ...。あの癖のある酒造家だ。一時、宇宙人に酒を貢いでいたっけ。 「おまえも一度店見てこい。勉強になる。うちとは違うジャンルの酒も扱っているからな。トベラさんの話もなかなかいいぞ。斬新な考えの持ち主だから。」 「はぁ」 「シュロはまずその仏頂面をなんとかしないとな。お前、酒の知識はあるんだからさ」 奴が口をはさんでくる。ちらりと見ると、全くの別人に見える。 「ん?」 俺の視線に気付き奴がこちらを見る。俺はいつも通り目を逸らす。 「ったく。俺はメドゥーサか!」 奴が俺の態度に悪態をついた。 「なんだ?」 二人の間になにが起きたのかわからない店長が聞き返した。 「こいつ、俺の目を見ない。ずっとだ。なにが気に入らないんだ」 いちいち言わなくてもいいのに奴が店長に説明する。 「ふふふっ、カツラ、シュロは照れてるんだよ。おまえの瞳は綺麗な色をしているからな」 「え...」 奴の瞳が大きく見開かれる。 店長の言葉に俺はなんともいえない気持ちになった。勝手に顔が火照る。店長が言ったようなことは断じてない。奴に誤解を招くようなことを言われ俺は焦った。 「店長、俺はっ」 「仲良くしろよ。仲間なんだから」 店長はそう言って俺と奴の手を取り、奴の手の甲の上に俺の手を重ねさせた。男にしては細く長い指、薄い手…。色白の奴の手は冷たかった。俺の体温とは正反対。俺は、俺は...。 熱を持った俺の手が奴の手に触れお互いの体温を奪い合う。 「シュロっ?」 店長の声が遠くで聞こえる。 「シュロっ!」 奴が驚いた顔をしている。 気付くと俺は店の椅子を並べた上に横になっていた。 「お兄ちゃん、大丈夫?」 エルムが心配な顔で覗き込んできた。エルムはもう服を着替えている。 「みんなは?」 「みんな帰ったよ。店長さんは事務所にいる。目を覚ましたら声かけてって言われたから呼んでくるね」 数分後、心配そうな顔をした店長がエルムと一緒に店内に戻ってきた。エルムは気を利かせたのか事務所で待っているといって席を外した。 「シュロ、大丈夫か?」 「おっす」 「おまえ、早くカツラ慣れしろよ。一緒に働き出してもうずいぶん経つだろう?あいつの免疫つけておかないと仕事がやりにくいだろ」 「...。」 「シュロが来る前にお前みたいな奴が何人かいたんだ。カツラに気付かれたらますますやりにくい。今夜は俺の方でうまくごまかしておいたから」 俺は店長の言っていることが分からなかった。 「あの、いったいどういう?」 「シュロ、おまえカツラに惚れてるんだろ?」 俺の目を覗き込み本心を見透かすように店長が言った。

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