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第116話 シュロのできごと 裏①

 今夜は『desvío』で送別会があるとカツラから前持って聞いていた。そして偶然にも店長からも今夜は店で送別会をしているから、仕事の資料を届けてほしいと連絡があった。タイガはカツラを驚かせようと店に資料を届けに行くことは彼には内緒にしたまま退社後、店へと向かった。 店に着くと看板は出ず閉店中の札がかかってあるが、店内からは人の気配を感じる。タイガはドアに手をかけた。 「こんばんは」  一瞬自分は場所を間違えたのかと思った。店内に入った瞬間、メイド服や執事の姿をした者たちばかりだ。そしてみな一斉にタイガに視線を向けてきた。 このとき時間にして一瞬だが、タイガは金髪の長身の男に目を奪われた。美しい男の姿に胸が高鳴り、視線が釘付けになる。男もタイガのことを驚いた顔で見ていた。 「悪いね、こんな時間にわざわざ」 聞きなれた声にタイガははっと我に返り、声の主を確認する。 「え?店長?…ですか?」 『desvío』の店長は見慣れた黒の制服ではなく、どこかの民族衣装のようなものを身にまとっていた。しかしその姿は彼の持つ雰囲気と合わさりとても似合っていた。 「ははは、驚いたかい?みんなで仮装パーティーみたいなことをしていてね」 「え?」  数秒後、店長の言っている意味を理解したタイガはマジマジとその場にいる者たちの顔を確認した。確かに店で見かけたことのある顔もいる、眼鏡姿のウィロ―も。そして、タイガが先程胸ときめかせた男がカツラであったことに気付いた。初めて見るカツラの金髪姿にタイガは欲情しかけた。意識を逸らすために努めて話をする。 「なんだか楽しそうですね。えと...。大丈夫ですか?」 タイガはみんなの中心でテーブルに枝垂れかっかている大柄の男性に気が付き尋ねた。 「いやぁ、飲みすぎてしまったみたいで。ぶっ倒れたんだ。今からこいつを運ぼうと思っていたところなんだけど。図体がでかいもんだからどうしようかと」 店長が言うように確かにテーブルに顔面を預け倒れた男はタイガと同じくらいガタイがよかった。ギリギリのところでバランスをとりなんとか床に落ちずにすんでいるかんじだ。 「あの、俺運びましょうか?」 タイガは自分なら倒れている男を難なく運べるだろうと思い提案した。 「えっ、大丈夫?」 店長はタイガの申し出に驚いたようだ。 「はい、多分。どこに運べばいいですか?」 「えっと、じゃぁ」  タイガは倒れたシュロを軽々持ち上げ店長に言われるままに用意された椅子の上に彼を横にした。そんな様子を他の者たちは呆気にとられ言葉を失って見ていた。特に女性二人はうっとりとした目でタイガを見ている。 「タイガさん、すごいっすね。さすがもとアメフト部」 ウィローが誰ともなく言った言葉にフヨウが反応する。 「ウィローさん、知り合いですか?」 そしてタイガを知らないフヨウがウィローに尋ねた。 「常連だよ。最近は来ていないけど。店長と一緒に仕事もしているから」 「へぇ」 「ありがとう。助かったよ。よかったら一緒に飲んでいく?」 店長はタイガに礼を述べた。 「いえ、お邪魔したら悪いので。仕事も残っているので帰ります」 「そうかい?じゃ、お礼に一杯だけ飲んでいって。カツラ、タイガくんに一杯酒出して」 店長がカツラに声をかけた。先ほどからことにの成り行きを黙って見ていたカツラはさっとカウンターに入り、タイガのためにグラスに酒を注ぐ。 コト...。 「どうぞ」 「あ、ありがとう」  今夜初めてカツラと言葉を交わす。間近で見るプラチナブロンドのカツラは美しかった。ここまで金髪に違和感なく似合うとは。タイガは周りに気付かれぬよう彼を見つめまいと心駆けた。そんなタイガの気持ちを知ってか知らずかカツラは普段と変わらぬ様子で話しかけた。 「ナイスタイミングだったな。おかげで助かった」 聞きなれた愛しい人の声にタイガはなおさら胸が高鳴る。今朝もカツラと愛し合ったのだ。カツラの喘ぎ声を耳は覚えている。またも自分の分身が起き上がり思考を支配する前にこの場を立ち去らなければ。早く話を切り上げようとタイガは何気ないふうを装い言葉をつなげた。 「みんな似合ってるよ。面白いな」 「タイガさん」 「ウィロー。よく似合ってる。ごちそうさま。今夜はもう帰るけど、また仕事が落ち着いたら客として寄らせてもらうよ」 「待ってます。今日はありがとうございます」 「じゃ、店長、俺はこれで」 「うん、またな。資料確認したら連絡するから」 タイガはさっと店をあとにした。自宅に帰りしっかりと準備をしてカツラの帰りを待つために。タイガはもちろん今夜もカツラを抱くつもりだ。

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