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第118話 11-1

「今日から新しいバイトが入るから。ウィロー、お前教育係な」 「店長、了解です」 「学生の女の子のだ。フォローにはマキについてもらう。主にホールに入ってもらうから」  また今夜一人学生のバイトが新しく入る。フヨウは今だに手はかかるが何とか仕事をこなせるようにはなってきた。今回のバイトはどんな子なのだろう。なるべくやりやすい子がいいとウィローは思っていた。 厨房でフヨウと一緒に仕事をしていると店長と一緒に女の子が入ってきた。 「ウィロー、セージだ。セージ、困ったことがあったらウィローに聞いて」 店長がウィローとセージ、それぞれにお互いを紹介した。ウィローは厨房の業務をひとまずフヨウに任せ、セージと二人、店内の方に向かった。 「こういうバイトは初めて?」 「高校の時にベーカリーショップでバイトはしていたんですが。」 「ここの人たちはみんないい人達だから。困ったことがあったらすぐに聞けば助けてくれるよ」 「はい」  少し不安そうに答えるセージは小柄な女性だ。学生服を着ていたら余裕で高校生で通用するだろう。赤味がかったブラウンの髪に濃いブルーの瞳。髪は清潔感があり後ろに一つに束ねられている。今夜は初日で少し緊張しているようだ。華奢なセージは男が守ってあげたいと思わせるような雰囲気を持っていた。 「今夜は休みなんだけど、君と同じ学生バイトの子がいて。マキっていうんだけど。その子がびっしりついて教えてくれるから」 「わかりました」  その日は週末だったので店は混んだが、セージはウィローの心配をよそに仕事の覚えは早く、てきぱきと動き回っていた。直前の教育がフヨウだったからかもしれないが、ウィローは教えやすさを感じた。 セージは女性らしいかわいらしさを持っていたので客に絡まれることがあったが、困ったことと言ったらその程度で、店の者たちは優秀な子が入ったと思っていた。  翌日、土曜日なので店はほぼフルメンバーでシフトが組まれていた。厨房でフヨウに指示を与えているとセージが出勤してきた。彼女はウィローの姿を認めるとにっこりと微笑んだ。 「おはようございます。ウィローさん、今日もよろしくお願いします」 「おはよう。今日もよろしく」 「ホールなんだね。いいなぁ」 なかなか厨房業務から卒業できないフヨウがぼやいた。 「じゃ、行こうか。今夜はマキがいるから」 ウィローはセージに話しながら店内へと向かう。カウンターにはカツラがいた。彼はシフト表に目を落としている。カウンターをはさんで向かいにはセージの教育係のマキがいた。 「カツラさん、マキ、昨日から新しく入ったバイトのセージです」 二人が同時にウィローの方に視線を向けた。 「昨日入ったんだ。よろしく」 「よろしくね」 セージの姿を認めたカツラとマキがそれぞれ挨拶をした。反応がないセージをウィローは振り返った。もういつものことだとウィローにはわかっていたが。 「セージ?」 ウィローの呼びかけにセージがはっとなった。 「セージです。よろしくお願いします」 そのままセージは視線を落としてしまった。カツラを見て衝撃を受けたのだ。 「ウィロー、今夜はカウンターか?」 「はい」 「じゃ、マキ。セージと一緒にホール頼むな」 「承知しましたぁ」 ショートカットの黒髪に元気な茶色い瞳のマキは明るく答えた。そしてセージを連れホールの開店準備に取りかかった。  ウィローとマキのフォローもありセージは仕事を早く覚えていった。二週間もするとホール業務はフヨウよりできるようになっていた。 「お酒覚えるのは大変だけど、ここの仕事、楽しいでしょ?続きそう?」 仕事が終了し、マキとセージは帰り道を二人で歩いていた。 「うん。みんないい人だから。ねぇ...」 「なに?」 「あの...カツラさんってやっぱり恋人いるのかな?」 「え?」 マキはセージの口から出た言葉を聞きとうとうきたかと思ってしまった。カツラを紹介された時からセージの視線が彼を追っていることにマキはうすうす感づいてはいた。 こんなふうにカツラのことを相談されるのはいったい何人目だろうか? 「さすがにいるんじゃない。あのさ...余計なお世話かもしれないけどあの人はやめた方がいいよ?」 そしてマキは何度も見てきた。カツラに思いを伝え、彼に振られた上に冷たくされ店を辞めていった人たちを。マキはセージには続けてほしかった。 「どうして?」 「あの人の信念なんだよ、職場の人とはそういう関係に絶対にならないの。私このバイト長いけど今まで一人もいなかったから。」 「そんなのわからないじゃない。内緒でつき合っていたかもしれないでしょ?」 「それはそうだけど」 ぱっと見は頼りなげに見えるセージだがなかなか芯があって彼女は強い女だとマキは感じていた。このままではまた一波乱おこるのではとマキは気が気でなかった。

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