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第121話 11-4

 あんな贈り物は受け取ったがいちいち気にしていられない。ホリーとウィローは心配したがカツラは平気だといい、彼に対して特別な対処はなにもしなかった。 その日も男はいつもの席に座っていた。カツラの姿を認めると、いつも通りの様子で気さくに話しかけてきた。 「こんばんは。あの日は大丈夫だったろ?」 そもそも占いなど信じていないカツラは彼が渡した贈り物の内容には触れずに答えた。 「そうですね」 「よかった」 男との店でのやり取りはたったのこれだけだった。 今夜は早上がりのカツラは帰り支度をさっさと済ませ、タイガが待つ自宅へと急ぎ帰るため、裏口のドアを出た。 「カツラ」 聞き覚えのある声に名前を呼ばれカツラは振り向いた。そこにはあの男が立っていた。彼はカツラのことを待ち伏せしていたようだ。 「よかったぁ。もっと待たないといけないと思っていたから」 「あの...」 「いい店知っているんだ。これから飲みに行かない?」 「もう帰らないと。それにこういうことは困る」 カツラは店の外なので男にはっきりと言った。 「自宅はどこ?送るよ」 「は?」 「君はとても魅力的だから。心配なんだ」 男がカツラに近づいてきた。 「おい、それ以上近づくな」 「俺は君と仲良くなりたいだけだ」 「こっちはそんな気はない」 「あのプレゼント気に入ってくれた?うちの会社で作っているものなんだ。超極薄で感度の邪魔をしない。一緒に試さないかい?」 ガチャッ タイミングよく裏口のドアが開いた。 「カツラさん、まだ居たんですか?え?」 裏口にゴミを捨てに来たウィローがカツラの置かれた状況に気付いた。 「カツラさん、ちょっと」 ウィローはカツラの手を取り店内へと引っ張った。ドアを閉めカツラに事情を聴く。 「大丈夫ですか?」 「待ち伏せされたらしい」 その日、カツラは表側から店を出、車で来ている店長に自宅まで送ってもらった。 「しばらくは送迎しようか。何かあってからじゃな」 「店長、そこまでしなくても。俺はあんな奴には負ける気がしない」 「そうは言っても関わらないほうがいい」      そういうことでカツラは最近は厨房ばかりなのだ。料理を作るのは好きだが、酒に触れられないのはつまらなかった。しかも厨房にはフヨウがいる。 「こいつもうざい。俺のことを舐めまわすような目で見てきて不必要な絡みが多い」カツラはここ最近のストレスのせいでフヨウに対する余裕も失くしていた。  今夜、店は目が回るような忙しさだった。オーダーは止まりがちでいくら早くこちらが用意してもそれが客の元に運ばれる気配がしない。 「カツラさん、だめですよっ、ここにいないと」 カツラは厨房に居なければいけなかったが、全く回転していない店内の様子に我慢ができず、フヨウの言葉を無視してホールの応援にむかった。 「お待たせしました」  注文したものはまだかと待ちわびる客に最高の笑みで料理を運ぶ。グラスが空いているようなら今日のオススメの酒を勧める。パニックになっているバイト達に的確に指示を出し店が回り始めた。カツラの働きでカウンター内で客の相手と酒と料理の提供に慌てふためいていた者たちがようやく周りを見る余裕が出てきた。  ホリーはカツラの姿を目にし驚いていた。 仕事がやりやすくなったと思っていたらカツラが店内に出てきていたからだ。彼は新人のセージに指示を出し一緒に酒と料理を運んでいた。空いた席をさっと片付け新しい客を招き入れる。その客達のオーダーもすぐにとり通していく。 感じの良いい仕事のできる美形を客が放っておくはずもなく、そんな客からの話にも嫌な顔をせずに見事に交わす。そばで仕事をしているセージの表情も明るい。  しかしカツラが大丈夫なのかホリーはハラハラした。ホリーが心配するのも仕方のないことだった。というのも彼女の目の前には今あのラバが座っているのだ。ラバが目立つカツラに気付いていないはずがなかった。 「だいぶん落ち着いてきたみたいだ。大丈夫そう?」 「はい。すごく楽しいです」 セージはカツラに最高の笑みを見せた。店が落ち着きだしたのでカツラはそろそろ自分の持ち場に帰ろうとした。 「店員さん、こっち」 ラバはやはり気付いていた。カツラも感じていた。彼女からの視線を。 「あ、はい」 セージがカツラを気遣い進んでラバの元に行こうとした。カツラはそんなセージを引きとめた。 「大丈夫だから」 カツラは不敵に微笑むラバの元に向かった。

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