119 / 215
第125話 11-8
「おはよう」
「おはようございます」
「おはようございます」
遅番シフトでカツラが出勤した。厨房で作業をしているフヨウとセージが挨拶をする。
厨房にいるはずのウィローの姿はない。カツラは厨房を通りすぎ店内の方へと向かった。
カツラはレジのそばにあるシフト表を確認する。自分が作成したまま今夜セージはホールになっている。
「カツラさん、おはようございます」
厨房にいるはずのウィローがカツラに声をかけてきた。無言でカツラが見つめるとウィローは石のように固まった。
すごい圧だ...怖いとフヨウは思いながら今日あったことを順序だって説明した。その間カツラは一言も発しなかった。無言で話の先を促され、ウィローは生きた心地がしなかった。
「わかった。ウィローは今日はホールに入れ」
カツラは無表情でそう言って厨房に戻って行った。
「今夜はウィロ-がホールになったから、フヨウには俺が付く。セージはオーブンの方やって」
「はい」
「カツラさん、よろしくお願いしまぁす」
セージは仕事も細かく早い。一人でも厨房は完璧だった。
カツラは主にフヨウに付きっ切りで仕事に当たった。その日は特に意識してセージを避けたつもりはなかったが、セージはそうは感じなかったようだ。
閉店近くになり片付けながら明日の準備もする。客のオーダーが落ち着いた店内にフヨウはホールの練習に出た。厨房はカツラとセージの二人になった。
「カツラさん」
在庫の確認のためしゃがんで冷蔵庫を覗いているカツラにセージが背後から声をかけた。
「ん?」
カツラはセージを振り返らずに返事をした。
「私の思い過ごしならすみません...。カツラさん、私のこと避けてますか?」
カツラは冷蔵庫に入れている手の動きを止めた。まさかセージがこんな直球でくるとは思っていなかった。立ち上がりセージに向き直り答えた。
「別に避けていない」
「本当に?今夜だって全然...。シフトもかぶらないし」
「あのさ。悪いけど俺、そういうの無理なんだ」
「そういうのって何ですか?」
「なにって...」
か弱い見た目に反してセージは強い。カツラは対応を間違ったかと頭をフル回転させていた。
「私、カツラさんに対して何もしていません」
真っすぐカツラの目を見てセージが言った。確かにセージの言う通り、セージからは何も言われていないしされていない。
「そうだな...何もしていない」
カツラもセージをまっすぐ見て答えた。
「だったら普通にしてください。私、もっと仕事を覚えたいんです。カツラさんから」
「そうか...。わかった」
カツラの言葉を聞いてセージがにっこりと微笑んだ。カツラもセージの対応に意表をつかれた。つられて優しく微笑んだ。
「あの...俺、お邪魔ですか?」
厨房入口からフヨウが申し訳なさそうな声で尋ねた。
「なに言ってんだ。早く手伝え」
カツラは何事もなかったように答えた。セージは頬を染め片付けに専念する。そんな二人の様子をいじけた顔で見ていたフヨウはセージに嫉妬していた。
ともだちにシェアしよう!