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第126話 11-9

「ちょっとフヨウ!なにやってるの!」 「え?」 ホリーの言葉にフヨウは自分の手元を見た。 「ああっ!すみませんっ」 フヨウは気が気でなかった。というのもこの間目撃したカツラとセージの二人がとてもいい感じだったからだ。カツラさん、俺にはめちゃくちゃきついのに。セージにはあんなに優しく...。 セージがカツラに気があるのは本人の意思はさておき今や店の者には周知の事実だ。そしてフヨウがカツラに思いを寄せていることもみんなが知っていることである。おそらくカツラ本人も気づいている。 カツラにきつく指導されることに対して気にしていなかったフヨウだったが、自分に気がある相手に対してこうも異なる対応をとられるとさすがにへこんだ。 確かにセージはかわいい。女性だし。でも俺も男好きの男にはウケはいい方だ。瞳がかわいいとかよく言われる。カツラさんは女性しか無理なのかもしれない。あんないやらしい顔しているのに。 セージという恋のライバル出現でこんなことがずっとフヨウの頭の中でぐるぐると渦巻いていて、心穏やかではなかった。 「とくに今日はぼーっとしているわね。なんかあったの?」 「とくにって...。俺、普段からそんなにダメですか?」 「ほんと落ち込んでるな。聞くけど?」  今日はホリー、ウィローとフヨウの三人で厨房だ。フヨウに仕事を教えるために二人はわざわざ早く出てきてくれた。フヨウはこの間目にしたセージとカツラのことを二人に相談した。 「あぁ..っと。あの日ね。カツラさん怒ってなかった?」 フヨウから話を聞いてすぐにあの日だとぴんときたウィローがカツラの様子を尋ねた。 「別に普通でした。俺のフォローしてくれたし」 「怒るって担当を勝手にかわったから?そんなガキじゃないでしょ」 「めっちゃ怖かったんすよ」 思い出しただけで怖いというふうにウィローが呟く。 「セージはいい子だけど、カツラとは無理だと思うわ」 ホリーがバッサリとセージの失恋確定を言い渡した。 「え?どうしてですか?すごくいい感じでしたよ」 ホリーの言葉がフヨウは意外だったようだ。 カツラに恋人がいることを知っているホリーとウィローは顔を見合わせた。 「あんたマジでカツラが好きなの?フヨウってゲイなの?」 フヨウの気持ちを確認するようにホリーがはっきりと聞いた。 「違いますよっ!ゲイじゃないです。でもこれでもそっちの人に口説かれたことはあるんですよ。断言しますが今までは女性ばかりです。でもカツラさんはなんというか、違うんですよ。普通の男とは...魔性とでもいうのかな...性別なんて関係ないみたいな。男で好きになるのはカツラさんで最初で最後です!そう思うぐらい好きで。運命めいたものも感じてしまって。それにあのコスプレはヤバかったです。プラチナブロンドのカツラさん、良すぎて...。あれからなおさら意識してしまって」 フヨウの言おうとしていることにホリーもウィローもおおいに心当たりがあった。 カツラは性別が関係ない。遺伝子レベルで人を惹きつける。身をわきまえずに虜になったら地獄だと。 「あの?俺、なんか変なこと言いました?」 押し黙る二人にフヨウが尋ねた。 「なんか今回はすごいっすね。今までで一番かもしれない」 ウィローがこめかみをかきながら感心したように言った。 「そうね」 「なんのことですか?」 なにが一番すごいのかわけが分からないフヨウが尋ねた。 「『desvío』で働き始めてからカツラに好意を抱く人たちはたくさん見てきたわ」 「でも今回は客では女社長に、ゴム男、店ではセージとフヨウ」 「同時に四人はさすがになかったな。客の二人は強烈だったしね。あいつパンクするんじゃない?」 「俺はカツラさんなら器用に立ち回れると思いますけど」 ホリーとウィロ-の二人がカツラをめぐる恋模様を傍観者のごとく話す様子を見てフヨウは咄嗟に叫んでいた。 「ちょっと待ってください!!」 突然のフヨウの大声に二人はぴたっと押し黙った。 「あ、すみませんっ。でも、俺はマジで本気です!他の人たちとは違う」 「あんただけが本気ってわけじゃないと思うけど。そもそももしカツラに恋人がいたらどうするの?」 ホリーの問いかけに今度はフヨウが押し黙った。

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