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第128話 11-11

「腹減ったな。これ、味見するか?」 セージの腹の虫が鳴った後、間髪入れずにカツラが言った。みんなの視線がセージからカツラへ動く。 「え、それはまずいんじゃ...」 ウィローが制止する。 「大丈夫。タイガが開けたことにすればいい」 カツラはそんなウィローの心配をよそにあっさりと言い放った。 「ええっ!」  タイガは抗議の声を発したが、カツラは無視して一番目を引くレトルトパウチを皿にあけた。これだけでもうまそうだったが、カツラがさっとアレンジをしていく。ウィローにも指示を出し、他の缶詰、パウチを開け皿によそっていく。タイガとセージはカツラの手際のよさと料理のセンスに見とれていた。 「酒は...強いのはやめた方がいいから。これにするか」 カツラが選んだ酒は紫色の酒だった。 「巨峰酒だな。ウィロー、炭酸で割ろう」 グラスに紫色の液体が注がれていく。美しい濃い紫。注ぎながらカツラが語り始める。 「店長お墨つきの高級ブドウを使った果汁本来の自然な香りと味わいを堪能できる贅沢なプレミアムリキュールだ。ブドウの産地で名高い◇◇のブドウを使っている。蔵人が丹念に(かも)した自家醸造の清酒と巨峰の果汁をたっぷりブレンドしたものだ。濃い紫の皮からのぞかす、巨峰本来の透明な果実から搾られる自然な果汁のリキュールとして味わうのがオススメだ。そこらで出回ってるものより一味も二味も違う、リッチな味わい。レストランのどの料理にも合う」  久しぶりに聞いたカツラの酒の講釈にタイガはもう一人の自分が起き上がりこの場で彼は俺のものなのだと宣言したくなった。酒をそそぎながら澱みなく知識を披露するカツラはやはり美しく、見る者を魅了した。ウィローもセージもうっとりとした顔でカツラの酒の説明を聞いていた。 「乾杯だ。今夜も店は繁盛する」 カツラの呼びかけにその場にいた者が笑顔でグラスを掲げて乾杯をする。タイガも初めて出会ったセージとグラスを交わしていた。 「あのぉ...」  なかなかウィローが戻ってこないと思っていたら店内の方で楽しそうな声がする。一人取り残されたフヨウは恐る恐る店の中を覗いた。「知らない男がいる。いや、前に一度見た。シュロさんを担いだ男だ。どうして彼がまたここに?みんなグラスを持って楽しそうにしているけど...」フヨウは自分だけが忘れ去られたようで悲しくなった。そして邪魔をしてしまって申し訳ないというふうに声をかけた。 「フヨウ、お前も食うか?」 フヨウの姿を見、カツラの美しい翠の瞳が一瞬大きく見開かれた。カツラから認識され声をかけられフヨウの心は高鳴った。 「はいっ!」 近づくと様々な料理があった。フヨウが不思議に思って見ているとウィローが経緯を話してくれた。 「大丈夫ですか、店長に黙ってこんなこと」 ウィローが心配してカツラに尋ねた。 「心配ない。手を付けていない物もたくさんあるんだし。酒だって開けたのは一本だけだ」 「そうですけど...」 「大丈夫。俺の方からうまく言っておくから。心配しなくても店長はこんなことでいちいち目くじらを立てるような人じゃないと思うよ。レストランの支配人もみんなでってことだから」 タイガもカツラに加勢する。タイガはカツラが自分のそばにいる女の子をかばうためにこうしたことに気付いていた。愛しいカツラのために自分ができることは何でもするつもりだ。 「はぁ...」 ウィローは渋々納得する。 「お前は心配性なんだ」  セージはカツラが自分のためにあんなことを言い出してくれたのだと思っていた。カツラの立場が悪くなるようなら自分は全力でカツラをかばうつもりだ。ますますカツラへの思いが強くなる。人を惹きつける美しさだけでなく、彼はここぞというときにとても優しい。

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