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第129話 11-12
それにしてもカツラがアレンジした料理はとてもうまい。好きな人が手を加えた料理だと思うとなおさら食欲がわき出て、フヨウは出された料理にがっついていた。
美しく料理の腕まで最高のカツラにますます惹かれるフヨウは、最初からこの場での唯一の部外者であるシュロを担いだ男のことが気になっていた。男はやけにカツラとの距離が近い感じがするのだ。彼はウィローとも仲が良さそうだが。
「ウィローさん、あの...」
フヨウは一番聞きやすいウィローに男が誰であるかを尋ねた。
「彼はタイガさんだよ」
カツラの隣に腰を掛け料理と酒を口にするこの男がフヨウは気に入らなかった。
「タイガさんってカツラさんの同級生ですか?」
たまらずフヨウはタイガに質問していた。思いがけない相手から話しかけられタイガは一瞬戸惑った。
「いや、俺はこの店の客で...」
タイガは当り障りのない言葉で返す。
「タイガはお前と同い年だ」
カツラがフヨウの質問に代わりに答えた。「え?俺と同級!」フヨウは自分とは異なり落ちついた雰囲気のタイガをもう一度観察した。明らかにイケメンだ。甘いマスクでよく見ると幼さが残っている。それがより一層彼の魅力を増している。女子に人気がありそうだ。かなりの長身でガタイもいい。なにもかも完璧な空気をまっとった男は自分とは異なり仕事もできそうに見える。同い年と聞いてフヨウはこのタイガという男がますます嫌になった。
「タイガさん、最近仕事忙しいですか?」
ウィローがタイガに近況を尋ねる。
「うん、まぁちょっと...」
カツラはタイガの皿が空くとさっと料理をとり入れる。タイガがウィローと会話し始めると、カツラはタイガのほうに視線を向けている。ウィローではなくタイガを見ているのだ。フヨウはタイガを見るカツラの表情が気に入らなかった。カツラのタイガに対する態度が特別な感じがして、タイガに対するどす黒い嫉妬がフヨウの心の中に渦巻いた。
「タイガさん、ほんとに仲がいいんですね、カツラさんと」
フヨウの言った言葉は棘があった。言い方が攻撃的だったのだ。フヨウはそんなつもりで言ったのではなかったが、抑えきれない嫉妬のため辛辣 な感じがそのまま出てしまった。いつもはへらへらしているフヨウのキツイ言いようにウィロー、セージが息を呑む。言われたタイガもフヨウの自分に対する否定的な気持ちに感づいた。気まずい沈黙が一瞬流れる。「どうしよう」とウィローが思ったのも束の間、静寂を破ったのはカツラだった。
「当たり前だろ。タイガは俺の恋人なんだから」
「え?」
ウィローが間抜けな声を出す。カツラの言葉を聞いたタイガ以外の一同キョトンとしている。
「カツラッ」
タイガが慌てて声をあげる。
「もう、隠さなくていいだろ。頃合いだ」
カツラがタイガに微笑みながら彼の手に自分の手を重ねて言った。
「えっ?えー!えーっ!」
ウィローがようやく理解したのか驚愕の声を発した。
「ウィロー、お前、驚きすぎだ」
「だって、だって...あっ...!あのリングはもしかしてタイガさんが?」
「ああ、うん」
「だからタイガさんが来た時は移動してたんですか!」
ウィローは今までバラバラだったパズルのピーズが埋まるように自分で見てきた出来事を当てはめていく。どうして自分は気付かなかったのか、言われてみればと納得できた。
「それ以外ないだろ。お前、相当にぶいな」
肘をつき、手の甲に顎を乗せながらカツラが言った。
セージは今聞いた事実に驚きを隠せなかった。たった今、カツラのことがもっと知りたい、カツラにもっと触れたいと思ったばかりなのだ。しかし彼には恋人がいた。しかも男性の。
「カツラさんって...女性がダメなんですか?」
セージはかなり婉曲 的に、遠まわしにカツラに尋ねた。「カツラさんより綺麗な女性はそういない。だから男性と?」そんな疑問がセージの頭をよぎった。
「いや。ダメなのはこいつのほう」
カツラはタイガを指でさし答えた。
「そう...ですか」
セージは目の前にいる二人を改めて見た。そして妙に納得してしまった。とてもお似合いだと感じたのだ。見つめ合う二人はお互いのことを思い合っている。カツラのことは残念だったが、そこまでショックではなかった。今事実を聞き、カツラという存在が性別を超越しているように感じたからかもしれない。不思議とカツラのことは諦め前に進めるように思えた。
「さ、そろそろ仕事に取りかからないと。ウィロー、残った物冷蔵庫に」
「はい」
「タイガ、お前も仕事だろ。ここはいいから」
ウィローと一緒に皿を片そうとしていたタイガにカツラが声をかけた。そのままドアまで見送る。カツラと二言三言話をし、タイガは帰っていった。
ウィローに声をかけられるまでフヨウは金縛りにあったようにその場から動けなかった。カツラの背中越しに見えるタイガの眼差しは愛しい者を見る目だ。
二人が毎夜裸で絡み合っていると思うとやりきれなかった。自分の大好きな人をあの男が独り占めしている事実にフヨウは憤る。カツラの恋人が男で自分と同い年ということでなおさら理不尽さを感じた。「俺にもチャンスがあったのではないか。あの男と俺となにが違うんだっ!」フヨウは不公平な現実に納得できなかった。
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