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第130話 11-13

 今夜は出張で店にいない店長から連絡があった。レストランからの差し入れはカツラの予想通り、店長は全く気にしておらずみんなで好きなように食べていいと言ってくれた。たくさんあった酒は一人ずつに持ち帰らせてくれる気前の良さだ。ウィローは今夜頂いた酒にはなにをあてにして飲もうかと考えていた。 しかも今日はとても衝撃的なことがあった。「カツラさんとタイガさんが...」 ウィローはタイガが初めて店に来た時にカツラがタイガに酒を奢ったことを思い出す。その後もそれはしばらく続いた。「ということはカツラさんから口説いたということか?」 タイガはもともと女性がだめだったが、あんな美形に言い寄られたらノーマルの男性でも受け入れてしまうのではないだろうか。カツラに関しては性別が付き合う障壁になるとは思えなかった。性格もいいし一緒にいて楽しい。ウィローは人としてカツラを慕っている。カツラから言い寄られたタイガは運がいいと少し羨ましく思ってしまうウィローだった。 それよりも気にかけなければいけない奴がいるとウィローは気を引き締める。そして先ほどから無言で仕事に取り組むフヨウに目をやった。 「フヨウ、今夜は集中してるじゃないか。そろそろオーダーが流れ込むから気合入れてやっていこう」 「はい」  カツラとタイガの恋人宣言を聞いてから、フヨウの様子がおかしい。彼は失恋したのだから無理はないが、普段の彼とあまりの違いにウィローは心配になった。 今夜はバイトも一緒に厨房に入っている。経験の長いバイトなのでこの人数でやっていけるはずだった。しかし今夜フヨウは些細なミスが多くウィローとバイトで必死にフォローしても追いつかず、厨房業務が滞り始めた。 「どうした?オーダー止まってるじゃないか」  あまりのひどさにカツラが厨房に様子を見に来た。死んだような顔で業務にあたっていたフヨウが原因だとすぐに見抜いたらしく、カツラはフヨウの仕事を取り上げ、彼の代わりにてきぱきと動き始めた。ウィローとバイトにも指示を出し、止まっていたオーダーが流れ出す。 一通り区切りがついたところで、横でぼーっと三人の様子を眺めていたフヨウにカツラは声をかけた。 「ちょっと来い」 「へ?」 間抜けな声を出しフヨウがノロノロとカツラについて厨房から出て行った。店内ではなくカツラはフヨウを外に連れだしたようだ。ウィローはフヨウが大丈夫だろうかと気になった。 「今夜のはなんだ?」 「...」 フヨウを外に連れ出したカツラは裏口のドアにもたれ彼にダメだしをした。フヨウは俯き黙ったままだ。 「具合でも悪いのか?」 「別に」 フヨウはとても小さな声で答えた。 「あ?なんだって?聞こえねえよ」 「俺...」 「なに?」 「俺じゃだめなんですか?」 フヨウはようやく顔をあげカツラに尋ねた。彼の表情は切実だ。 「なんのことだ?」 「カツラさん、俺の気持ち知ってますよね?あの人...タイガって人と俺、年も一緒だし。 俺、彼には負けません」 フヨウはタイガへの対抗心からカツラに自分の思いをぶつけた。カツラを思う気持ちは負ける気がしなかったからだ。 「お前...」 カツラはフヨウの気持ちには気づいていたが、フヨウの性格からして相手にしなくても問題はないだろうと判断し、いちいち気にとめていなかった。こんな時にこんな場所でこんなことをフヨウから言われるとは考えていなかった。最近予想外のことが多くカツラは上手く立ち回れていなかった。 「俺、カツラさんが好きです。愛しています。大切に、大切にしますから。貴方のためならなんだってできる」 フヨウは大きな一歩でカツラに歩みよりガシッとカツラの腕にしがみついた。予想外のフヨウの行動にカツラは身動きが取れなかった。 「愛しています。俺にもチャンスください」 明るいブルーのフヨウの瞳がカツラの瞳を捕らえる。フヨウの体は震えていた。カツラはしばらくフヨウから目が離せなかった。思いつめたフヨウの気持ちをどう落ち着かせたらいいのか考えを高速で巡らせていた。 「フヨウ、お前の気持ちはわかった。わかったから腕を放せ。痛い」 「嫌だ。やっとここまで近づけた。愛してる」 フヨウはそのままカツラを抱きしめた。

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