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第133話 11-16
「それで...なにがあったんだ?」
ひとしきり愛し合い風呂から上がりソファに座り二人で酒を飲んでいた。
カツラはタイガにフヨウのことをどう話そうかと考えを巡らせた。しかしどんな言い方をしようとタイガが怒り狂うのは目に見えている。呼吸を整えカツラはそっと口を開いた。
「フヨウって奴、覚えているか?」
「今日いた奴だよな?確か俺と同いの...」
タイガは今日見たフヨウという男の姿を思い浮かべた。明るいブルーの瞳に赤毛。小柄だがガタイは良さそうな好青年。
「仕事ができない奴な」
「あっ!前にぼやいていた奴と同一人物か!」
「そうだ」というようにカツラが頷いた。
「俺に気があったらしい」
カツラはグラスに視線を落としてぼそりと呟いた。
「え?」
タイガはフヨウが自分には否定的な雰囲気だったことを思い出す。原因はカツラだったということか...。
「気付いていた、奴の気持ちには。いい加減なやつだからいちいち構ってやらなかった。みくびっていたんだ、あいつのことを」
「そいつがなにかしたんだな!」
「フヨウは...今夜は仕事が最悪でさ。場所を変えて注意していたらいきなり告白されて。急に抱きついてきて...。俺は身動きが取れなくなった。それでこのありさまさ」
カツラは赤くなった両腕をあげて見せた。その先もまだあるのだろうとタイガは黙っていた。
「息苦しくて。あいつがあんなに力があるとは思わなかった。キスされて余計に息ができなくなって失神したんだ」
「はぁ?!」
タイガはカツラから聞いた事実に怒りがこみ上げ頭の中がパニックになった。
「ちょっと待てよ!それって、レイプみたいなものじゃないか!失神したって...病院に行かなくて大丈夫なのか?」
「タイガ、すぐに意識は戻った。ウィローが介抱してくれたから」
「そいつ、許せないっ!力づくなんて最低だっ!」
「俺が対応を間違った」
「カツラ、自分を責めるな!悪いのは全部奴だ!」
「タイガ...」
タイガはフヨウにいったいどんな制裁をしてやろうかと既に考え始めていた。「警察に突き出してやる!許せないっ!」タイガは携帯を手に取り操作し始めた。
「タイガ?」
「警察に連絡するんだよ」
「待て」
「どうして!」
「大事 にしたくない」
「でもっ!」
「タイガ、頼む」
タイガは納得できなかったが、カツラが落ち着き静かに頼むので、渋々携帯から手を離した。
つらい目にあったのはほかでもないカツラなのだ。
「どうするつもりなんだよ...」
「別に...。あいつには俺の気持ちは伝えた。悪気があってやったわけじゃないのもわかっている。キス以上のことをするつもりはなかったと思うしな」
「カツラ、甘いよそんなの!」
「かもな。お前と出会って俺は変わった」
カツラはタイガに優しく微笑んだ。
「えっ...」
カツラはかつてタイガに片思いをしていた頃の自分を思い出していた。振られたが諦めきれず、付きまとい嫌われ一度は身を引いたがやはり諦められなかった。タイガも同じように自分を求めてくれたからよかったが、そうでなかったら今頃自分はどうなっていたのか。
カツラはフヨウの気持ちに応えることはできないが、彼を追い詰めたくはなかった。もともとのフヨウの人間性もわかっている。恐らく今日タイガをあんな形で紹介したのがよくなかったのだ。
「今回あいつがしたことは最悪だけど、もう一度チャンスはやるつもりだ。同じ店の仲間だからな」
「カツラ...」
「お前と過ごして俺は人間らしくなった。タイガ、お前が俺を変えたんだ」
カツラがタイガに抱きついてきた。タイガもカツラを強く抱きしめる。
「それに...こういうことは今までもよくあった。俺には隙があるのかもしれない」
「そんなことない!」
悲しく微笑むカツラをタイガは見つめた。
とても美しい男。人を強烈に惹きつける魔性の魅力がある。その魅力に捕らわれてしまったら思いがけない行動に出てしまう者もいるだろう。カツラが悪いわけではない。
「カツラは悪くない、絶対に。ただ、魅力的なだけだ」
タイガはそう言ってカツラに優しくキスをした。そのまま彼を抱きしめる。
「今までは不意にキスをされてもそんなに気に留めてこなかった。でも今は俺にはお前がいる。だから...少しつらいな」
「大丈夫。俺がカツラを守るから。他の奴にキスされたらなんどでも上書きしてやる」
二人は見つめ合いまた深く唇を重ねた。
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