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第139話 11-21

「これ、頼んでいたものと違うんだけど?」 「え?えーっとぉ...」 「申し訳ございません、お客様。こちらですよね?」 ミスをしたフヨウのそばにさっとカツラが駆け寄り客が注文した酒を差し出す。美しい黄金色に輝く酒。カツラは客の機嫌を取り繕おうと酒の説明を滑らかに始めた。見たこともない美形が飛び切りの愛想でなるほどと思う酒の講釈をする。不機嫌だった客の顔はほころび、他にお薦めの酒はないのかとカツラに話しかける。上手に客との話を打ち切りカツラは用意された料理を運ぶため、カウンターへと移動する。 「フヨウ、お前ちゃんと確認してから運べ」 「だって…似てませんか?今の酒」 「グラスも違うだろうが。オーダー票と確認して運ぶんだ。ほら、これ5番テーブル」  フヨウは最近ようやくホールに専念し始めた。しかし相変わらずミスが多い。そんなフヨウのフォローにカツラが当たっているが、ホリーから見てそれがなおさら逆効果になっているのではと思ってしまう。カツラが必死に説明していてもフヨウはカツラの顔ばかり見ているのだ。「完全に(ほう)けてるわ」ホリーは一人ため息をついていた。 しかしフヨウを追い詰めるとまたどうなるかと思うと余計なことは言えなかった。ミスはしながらでも大好きなカツラにしごいてもらい、フヨウは前向きに仕事に取り組んでいるのだから。 「本当にカツラは変わった。フヨウみたいな奴には以前ならガン無視だったのに」ホリーはカツラを変えたカツラの恋人のタイガに興味があった。恋人になりその存在を店の者に知られたせいか彼は全く店に来なくなっていた。 「ねえ、今度ちょうど店の定休日に花火大会があるの知ってる?」 片付けをしながらホリーはウィローに話しかけた。 「へぇ、どこでするんですか?」 「港町のポートよ!!」 「海に花火か。綺麗だろうなぁ」 「みんなで一緒に行かない?」 「え!」 「社員だけでもいいじゃない?フヨウには声かけてもよさそうだけど…。ウィロー、予定どう?」 「俺は特に予定はないので。シュロさんに聞いてみますか?」 「そうね。カツラには私から聞いてみるわ」 ホリーはカツラを誘い、そのまま彼の恋人のタイガを引っ張り出すつもりでいた。 「花火?」 「せっかくだから。カツラもポートは好きでしょ?」 「まぁ...」 「なんなら彼氏も連れてきたらいいじゃない。思い出になるわよ?」 「だったら二人で行きたいな」 「...」 計画が失敗したと押し黙るホリーをカツラがじっと見つめる。わかってるんだよ、お前の考えていることはとでも言いたげな目だ。対するホリーは見抜かれいてる...。その目やめてよね!と思いながらも言葉を続ける。 「彼に一応聞いてみたら?」 にっこり微笑んでホリーが提案する。 「ま、聞くだけ聞くけど」 「俺、行くよ。有給たまってるし。せっかくだから」 「え、でも...」 「カツラの職場の人とも仲良くなっておきたいし」 タイガには別の目的があった。カツラの話では社員とあのフヨウとかいう奴も来るとのことだ。「ちょうどいい機会だ」タイガはカツラは自分のものだとフヨウに見せつけるために花火に行くことにしたのだ。 「お前がそう言うなら。でも疲れないか?」 「ウィローも来るんだろ?それにカツラから離れないからさ」 「ま、それは当然だけどな」 カツラはタイガの企みなど気付かずにタイガと一緒に初めて見る花火を楽しみにした。

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