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第140話 11-22
その日、港町のポートは人で賑わっていた。参加メンバーは花火が打ちあがる一時間前に待ち合わせをした。場所取りはシュロとフヨウがかって出てくれいい場所が取れたらしい。
ホリーはウィローと一緒に電車に乗ってカツラとの待ち合わせ場所まで向かう。
「落ち着いた感じの人ですよ。年齢より大人びて見えます」
「そうなの?私は全く関わってないからな」
「タイガさんの席はいつも入口近くですから」
ホリーがウィローからタイガの情報を仕入れながら歩いていると、前方に目立つ二人組がいた。
一人はかなりの長身、ガタイもいい。きちっとしたポロシャツの上からでも鍛え抜かれた体が分かる。もう一人はまるで雑誌から抜け出したモデルのようだ。今日は珍しくサングラスをかけている。Tシャツにリネンシャツを羽織っただけのラフな格好だが悔しいぐらい様になっている。
カツラは棒つき飴を口にし、港の手すりに腕をのせ体重を預けていた。隣に立つタイガはそんな彼を気遣い、変な虫が寄りつかないように目を光らせているようだ。
「カツラッ」
ホリーに名前を呼ばれ気だるそうにカツラが振り向いた。隣にいるタイガも振り向く。
「こんばんは。カツラさん、タイガさん」
「こんばんは。はじめまして」
タイガが挨拶の後、ホリーに目線を向けた。
「こんばんは。今日は楽しみましょう。ホリーよ」
「どうも。タイガです」
「すごい人だな」
相変わらずだるそうにカツラが言った。
「それでそんなにだらけてるの?」
「いや...。もう7組ぐらいに声をかけられて。ははは...」
タイガが言葉を繋ぐ。普段見慣れているがカツラをこうして見ると確かに目立つ。何人にも声をかけられ嫌気がさしたということだろうか。
「だからサングラスかけてるの?」
「これはタイガのだ」
4人は歩き始めた。自然とホリーとカツラ、タイガとウィローのペアになった。タイガは前を歩くカツラとかわいらしいホリーの二人から目を逸らせなかった。二人がとてもお似合いに見えたのだ。
ホリーがカツラがかけているサングラスにまだちょっかいを出しているのか、カツラがサングラスをとり、ホリーにかけさせようとする。それを「ちょっと!」とさえぎろうとするホリー。はたから見たら、仲良くじゃれあっているように見える。ホリーと長身のカツラとの身長差もかなりあり、彼らは美男美女の理想のカップルだ。それを証拠にすれ違う何人かが二人を見て振り向く。
タイガとカツラといるときは男同士のため女性から声をかけられまくったが、カツラの隣にホリーがいるだけでそんなことは一度もなかった。周りからも二人はカップルに見えるのだ。
タイガの中に嫉妬が芽生える。ホリーとはいつから知り合いなのか。二人の間にはなにもないのか。
「タイガさん?」
タイガに話しかけていたが、カツラとホリーのことで余裕を失くしていたタイガからの反応がないためウィローが名を呼んだ。
「あ、うん。聞いてるよ」
タイガはウィローに嫉妬していることを気付かれないように努め普通を装い答えた。
「カツラさんっ、ホリーさんも。こんばんは」
聞き覚えのある声。タイガの記憶より呑気な感じだがこの声の主がフヨウだと気付いた。
「フヨウ、お疲れ。シュロさん、場所取りありがとうございます。タイガさんです」
何故かとなりにいるウィローがタイガを二人に紹介する。ホリーとカツラはまだなにか話をしている。二人はとても仲が良いい。以前つきあっていたのではと訝 しんでしまう。
「どうも...。俺たち同いなんで仲良くしましょう」
先日とはうって変わってフヨウは感じが良い。タイガは一発殴ってやりたい気持ちがあったが、カツラの気持ちを汲みただ「はぁ」と答えるにとどめた。カツラから聞いていた通り、へらへらとしたフヨウの態度になおさら嫌悪感を感じた。フヨウがなるべく自分の視界に入らないようにする。
そしてもう一人、タイガは自分と同じくらい体格のいい男から強い視線を感じる。まるで値踏みされているようだ。確かこの間ぶっ倒れていたため、抱え上げ運んだ男ではないだろうか。
「この間は世話になったようで。ありがとう」
ふいに礼を述べられタイガも咄嗟に答える。
「いえ」
「結構いい場所とれたのね。こんなに近くで見られるなんて」
「フヨウが頑張った」
「俺、普段迷惑かけてますから」
ちゃかり人数分の椅子まで用意している。近くまでシュロが車で来、椅子を運んだらしい。フヨウは厚かましくカツラの隣の席に着いた。そしてことあるごとにカツラに話しかける。
「カツラさん、喉渇いていませんか?」
「俺、仰ぎましょうか?」
「ここの花火は打ちあがる数が特徴で...。」
などなど。
カツラは素っ気無く答えていたが、タイガは先ほどのホリーとの件もあり、タイガの内に巣くういつもの嫉妬の蛇が鎌首をもたげ始めた。しかも相手はカツラに無理やり抱きつきキスをしたフヨウだ。こんな奴に気なんて使ってられないと思いタイガは行動に移す。
「どうした?タイガ?」
ふいにタイガが立ち上がった。そのままカツラの手を引きカツラを立ち上がらせさっきまで自分が腰を掛けていた椅子にカツラを座らせた。そして自分はカツラが掛けていたフヨウの隣の席に腰をおろした。
「え...」
突然のできごとにフヨウの声が漏れた。
何事かと他の三人もこちら側を見て様子を伺う。ホリーはことの成り行きが楽しみで仕方がないと言った感じで見ていた。
「お前、うるさい」
タイガの冷たい一言が響いた。
「う、うるさいって、俺はただカツラさんに」
「カツラは俺のものなんだ。馴れ馴れしくするな」
「はあ?!」
一見大人びて落ち着きのある男に見えるタイガの今のやりようにウィローもホリーもシュロも驚いていた。
確かにフヨウはウザイところがある。しかしここまではっきりと言われたことはないのではないだろうか。
「その言い方って。カツラさん、なんとか言ってくださいよぉ」
フヨウが甘えた声でカツラに助けを求めた。
「タイガの言ったことは間違ってない。お前、ウザイからな」
「カツラさんまで。店では優しくしてくれるのに」
「あのな、仕事で教えているだけだ。変なこと言うな」
「カツラ、放っておけばいい」
タイガはそう言ってカツラの手を握りしめた。
「カツラさぁん」
フヨウがカツラの名を呼んでもカツラは無視した。ぼーっと空を眺めている。タイガは握りしめたカツラの手を口元に当てじっとカツラのほうに視線を向けた。まるで監視しているようだ。
カツラがタイガの視線に気付きタイガを見る。目が合うと嬉しそうに微笑み握られた手に自分の手を重ね...。そのまま二人で顔を近づけこそこそと話し始めた。
フヨウ以外の『desvío』メンバーは絶句した。あのカツラがタイガの言いなりなのだ。
「フヨウ、ほら」
見かねたウィローがフヨウに飲み物を渡した。
「冷たい飲み物たくさん用意して、偉いじゃない、フヨウ」
ホリーもカツラに無視されたフヨウを慰めるように声をかけた。
そして花火が上がり始める。美しい花火の色を受けて歓声が上がる。
カツラとタイガは完全に二人の世界だ。ガタイのいいタイガが壁の役割をし、こちらからカツラの姿はよく見えない。しかしメンバーそれぞれがカツラとタイガの二人が気になり、彼らのほうにチラチラと視線を向けた。
二人はお互い引っ付き笑顔で花火を眺めている。カツラの表情はこの上なく幸せそうで、タイガにしっかりと手を握られたまま時折熱い視線でタイガを見る。二人だけならきっとキスをしているに違いないと思わせる雰囲気だった。
花火が終わりそれぞれが余韻に浸っていた。フヨウだけはふくれっ面のままだ。
「シュロ、車まで運ぶか?」
カツラが一番遠い席に座るシュロに撤収をどうするか尋ねた。
「俺とフヨウで運べるから大丈夫だ」
「カツラ、せっかくだから手持ち花火持ってきているの。一緒にやらない?」
ホリーが花火のセットを見せながら言った。
「タイガ、どうする?」
カツラがタイガの意見を伺った。
「明日仕事があるんだけど...。少しだけなら」
「じゃ、混ぜてもらおうかな」
「よかった」
一行はシュロの車が止めてある近くの公園まで移動した。
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