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第141話 11-23
「いいな、たまにはこういうのも」
カツラが誰ともなく呟いた。みんなで手持ち花火を手にし、煙の中楽しい時間をすごす。知らず知らずのうちにまたカツラとホリーがペアになっていた。なかなか蝋燭から花火に火をとれないホリーにカツラが火がついた自分の花火を渡してやる。微笑み合う二人。カツラは無意識に女性に優しいのだろうか。
タイガにはもう余裕はなく、ガツガツとカツラの元へ近づき黄色い声をあげているホリーからカツラを引き離すように、彼の腰をぐいっと自分の方に引き寄せた。
「タイガ?」
タイガのこの行動に自分は牽制されたのではとさすがにホリーも気付いた。
カツラはタイガの瞳を見た。濃さを増したブルーの瞳。カツラはしゅんとした捨てられた子犬のようなタイガの瞳も大好きだが、自分を強く求めるこの濃さを増したブルーの瞳も好きだった。
気付くとカツラはタイガの顎を持ち、目を閉じ彼にキスをしていた。何度も唇を重ね、しまいには軽く舌が触れ合うキスをする。いつもよりは軽いキスだが、その場の視線を独占するには十分なキスだった。自ら求めタイガとキスをするカツラの横顔は美しかった。みな、視線が釘付けになった。しばらくして唇が離れる。
「カツラ」
カツラの名を呼ぶタイガの声は優しい。
「機嫌直った?」
カツラは優しく微笑んでいた。
タイガは視線を感じそちらに目を向けると、さっと全員があらぬ方を見る。フヨウだけが固く拳を握りしめうつむいていた。誰も話しておらず、辺りは静かで花火の燃える音だけが聞こえていた。
「ええと...次ので最後ですよー」
空気が読めるウィローがなんとか取り繕う。こんな状況にしてしまったカツラ自身は気まずい空気になったことを全く気にしておらず、タイガに「ほら、次はこれ」と花火を手渡す。タイガはようやく深い嫉妬から落ち着きを取り戻した。「やりたいようにやればいいんだ。せっかくの花火をカツラと楽しまなければ」
タイガは気持ちが吹っ切れ、カツラを背後から包み込むように抱きしめ、花火を手にしたカツラの手に自分の手を重ね自分の花火と一緒に持った。
「あははっ、すごいな!」
カツラが歓声を上げる。
「2本一緒だから迫力がある」
二人はじゃれ合いながら花火を楽しむ。いちゃつき始めた二人の世界には誰も入れない。
シュロは耳をすますように視線を落としたまま、ホリーとウィローはチラチラとカツラとタイガの方を気にしながら、各々が花火をする。フヨウは恨めしい目ではしゃぎながら花火を楽しむカツラを見ていた。
「フヨウ、あまり飲みすぎないようにね」
「だって...あんなのあんまりじゃないですか!」
手持ち花火後、カツラ以外の『desvío』メンバーで場所を変え酒を飲み交わしていた。
フヨウはタイガの言うままに行動するカツラにショックを受けていた。今夜はカツラとほとんど口をきけていない。
しかもあのキス。自分としたキスとは違い、カツラから求めたキス。カツラは幸せな表情で美しかった。「そんなにあの男がいいのか...」フヨウはかつてない敗北感を味わっていた。
その後は仲の良さを見せつけられた。あんなに子供みたいにはしゃぐカツラを想像したこともなかったし、見たこともなかった。カツラは年上だが完全に年下のタイガに甘えていた。
「びっくりしたわね。あんなにカツラが従順になるなんて。お店でもそんな感じだった?」
ホリーがタイガとは顔なじみのウィローに尋ねる。
「いや...俺が見た感じでは全く。カツラさんの方が年上ですし」
「タイガ君だっけ?結構束縛強そうよね。カツラ、大丈夫なの?」
「さぁ...」
「ま、あんなキスも見せられちゃったしね。その後はこっちが恥ずかしくなるくらいイチャついてたし」
「カツラが惚れてるんだろ」
「シュロさんまで…」
「俺、もう無理です」
「フヨウ、きっとこれでよかったのよ。他の人に目を向けた方がいいわ」
フヨウの目からは涙が溢れていた。本気でカツラに惚れていたのだ。
「ウィロー。誰か紹介してあげなさいよ」
「え?俺ですか?自分にだっていなにのに」
「なに言ってるの。セージと映画に行ったんでしょ?」
ホリーの話にシュロ、フヨウが目を見開いた。
「ウィローさん、セージと付き合ってるんですか?」
「違うよ、一緒に映画に行っただけ!ホリーさん、茶化さないでください。ホリーさんの方が女友達多いじゃないですか」
「そういうもんでもないのよ」
ホリーはかつて店で撮った写真を友人に見せた時のことを思い出していた。当然だが皆カツラに興味を抱いた。紹介してほしいと本気で頼まれたこともある。カツラと付き合えば絶対に友人が不幸になると確信のあったホリーはその申し出を断るのに苦労した。
店ではカツラという強烈な存在のせいで他の男子の影が薄まってしまっている。他のメンバーを紹介したいと持ち掛けても友人からは文句を言われるだけだろう。
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