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第142話 11-24
「カツラさん、絶対にマインドコントロールされてますよっ!助けらいと...」
「ウィロー、フヨウのことお願いできる?こんなに酔っぱらっちゃって」
テーブルに突っ伏し眠ってしまったフヨウをホリーが介抱しながらウィローに頼んだ。
「大丈夫ですよ。自宅まで送るんで」
「やけ酒で気が済むのならいいんだが」
シュロの車でフヨウを送り届けることになった。
『desvío』でカツラと顔を合わせたときにフヨウがどんな態度をとるのか誰もわからない。おそらくカツラは普段と変わらぬ態度のはずだ。
明日はシュロがカツラのそばにいた方がいいのではとホリー達は話し合い解散した。
「ふぁっ...」
「飲みすぎか?」
翌日、ウィローは欠伸を噛みしめながら厨房で業務をしているとなんの前触れもなくカツラから声をかけられびくっとなった。
「カツラさん、おはようございます」
「おはよ」
自分の前を横切るカツラにウィローはつい見とれてしまった。タイガにキスをしていたカツラが記憶に甦る。その後、二人でくっついてはしゃいでいた姿も。
「ん?」
カツラがウィローに振り返った。
「え?」
「なに?」
「...」
「また俺の悪口でも言ってたのか?」
カツラが片眉をあげてウィローに詰め寄る。
「まさかっ!言ってませんよ。ただ...」
「ただなんだ?」
カツラが目を丸くした。「この人、ほんとになにもわかってない!」ウィローはフヨウのことを気にしていたのだ。どういえばいいのか言葉がすぐに出てこない。
「おはようございます。あ、」
フヨウが出勤した。カツラの姿を見て固まってしまう。
「おはよ。昨日はあの後ずいぶん飲んだのか?」
「えっ、いえ、あの...」
フヨウはカツラの姿を見るのがつらいのか顔を下に向けていた。
「フヨウ、おはよう」
「ウィローさん、おはようございます」
「バイトが来るまでの準備、できそう?」
「はい」
フヨウはウィローに言われた準備をするためにいそいそと店内へと向かった。
業務に集中したくてもカウンターにはカツラがいる。
フヨウはこそこそとカツラの様子を見ていた。カツラは紙を手に持ち在庫を確認しながら発注する物がないか調べている。
フヨウにとってはカツラは特別だ。ずっと見ていたい。ずっと見ていても飽きることがない。それくらいカツラにやられてしまっていた。カツラから意識を逸らそうとしても今すぐには難しかった。
「はぁ…」
「気が滅入るため息すんな」
ぱっと顔をあげるとカツラがこちらをじっと見ていた。
次の瞬間にはフヨウはカツラの元に駆けより、カウンターに置かれていたカツラの手に自分の手を重ねていた。
「だってあんまりです。昨日はちっとも話せなかったし」
カツラが自分の手の甲の上に重なったフヨウの手を目だけで見下ろした。そしてまたフヨウの顔を見た。「離せ」と言っているのだ。
「す、すんません」
カツラからの無言の圧にフヨウは慌てて手を離した。
「仕事に集中しろ」
「はあ」
「今夜お前にはシュロについてもらう。あいつは厳しいからな」
「カツラさぁん」
カツラの態度は普段と変わりなく素っ気無かった。フヨウはため息を飲み込みのろのろと仕事に取り組んだ。
仕事後、フヨウは女の子と体で遊べる店へと足を運んだ。こんな店を利用するのは初めてだったが、カツラへの募る思いはもう限界だった。フヨウはカツラと同じ黒髪、翠の瞳の女の子を指名した。
「お兄さん、ご指名ありがとう。ユーリでーす」
「すごい、綺麗な色だ」
「あ、これ?これはコンタクトなの。ごめんね。お兄さんご指名の翠の瞳の子はいなくて」
ユーリは申し訳なさそうに自分の目を指して言った。
「あ、そう...そうなんだ」
そうだよな、あんな綺麗な人はいない。そもそも、姿形が違うんだから。フヨウはカツラの顔や声を思い出し、胸が苦しくなった。
「黒髪、翠の瞳の子に片思いしているの?その子のこと、忘れられないのね?」
ユーリはベッドに腰を下ろしたフヨウの上に向い合せになるようフヨウの膝の上にまたがって座った。
「ははは...」
「私が忘れさせてあげるね」
「ああっ、あんっ、あんっ!」
「お兄さん、すごいっ。もうイッちゃたの?あっ!まだっ!!あんっ!」
「カツラさんっ、…カツラさんっ!!カツラぁっっ!!!」
フヨウはカツラを頭で想像し、ユーリをバッグで犯し続けた。アップに結わせたユーリの黒髪がカツラに見えなくもない。
フヨウは以前カツラを無理やり抱きしめた感覚を思い出す。細身のためもっと骨張っていると思っていたら、意外に肉付きがよく抱き心地の良い身体。柔らかく形の良い赤い唇と細い舌。すぐそばで嗅いだカツラの甘い香、伏せた長い睫毛 …。
カツラを抱いていると自分に暗示をかけると、何度も自分の分身は固くなり、カツラの代わりのユーリを抱き続けた。
「はぁはぁ...。私、一夜でこんなに抱かれたの初めて。お兄さん、体力あるね」
「...」
「こんなにすごいんだから、好きな子にも一回だけってチャンスもらえばよかったのに。カツラちゃんだっけ?もしかしたらもっと抱いてって言われるかもしれないよ?」
フヨウの気持ちをなにも知らないユーリは一人ペラペラとおしゃべりを続けている。これも接客の一つなのだろう。フヨウは性欲は満たされたが虚しさがこみ上げてきた。この思いは自分が求め愛する人しか解決することはできないのだと実感する。フヨウの行き場のないつらい思いはカツラしか満たせないのだ。
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