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第146話 11-28
「おはようございます」
フヨウがおそるおそる店内を覗くと...いた。カツラとホリーがカウンターごしに話をしている。
「おはよう、フヨウ」
「おはよ」
カツラは普段通り挨拶はするが、すっとフヨウから視線を逸らした。やっぱり嫌われた...。フヨウがしょげているとホリーから意外なことを尋ねられた。
「フヨウ、大丈夫なの?」
「え?」
「彼女おめでたなんでしょ?」
「えー!」
フヨウは思わずカツラを見た。フヨウの視線に気付きカツラが仕方ないというふうに口を開いた。
「俺はなにも言っていない」
「じゃぁ、誰が...」
「マキからメールがきたの。もうみんな知ってるわよ」
「ええええ!!」
「詳しい内容は聞いてないの。彼女が乗り込んできて凄かったんでしょ?カツラったらさっきからだんまりでなにも教えてくれないんだもん」
昨夜、ホリー、シュロ、他数名のバイトは休みだった。しかし誰一人としてフヨウとユーリの件に関して口止めをしたはずもなく、『desvío』メールで回ったということらしい。
「ええと...」
今夜はウィローさんが休みだから、ホリーさんはカツラさんからネタをしいれようとしたんだ。昨日遅出で残っていたメンバーはあとはサワラとマキとセージと...。フヨウは彼らに口止めするべきか考え始めた。
「フヨウ」
カツラに声をかけられフヨウは咄嗟に返事をした。
「はいっ」
「今夜は俺もホールに入る。セージもマキもいるから無理だと思ったら誰かに声かけろ」
「はい」
カツラはそう言ってカウンターから離れホールの開店準備にとりかかった。フヨウはカツラの後に続き、小さな声でカツラに声をかけた。
「カツラさん、昨日はすみませんでした。俺...」
「フヨウ。仕事だ。切り替えろ」
「でも」
カツラは急に立ち止まりフヨウの方に振り向いた。
「お前、俺のことがそんなに好きか?」
フヨウは突然カツラから面と向かって聞かれ、心臓が飛び跳ねる思いがした。
「す..好きです。大好きです。愛してます」
「俺はタイガが好きなんだけど」
「それでも好きです」
カツラは軽くため息をつきながらつぶやいた。
「俺たちも平行線だ」
フヨウは昨夜ウィローとユーリの件を話したことを思い出した。
「ウィローさんから聞いたんですか?」
「フヨウ、責任はちゃんと取れ。俺はいい加減な奴は嫌いだ」
フヨウはカツラがこどもの責任を取るように言っているのだとわかった。
「でも本当に俺の子かわからないんです。ユーリはその…そういう店で働いているから」
「リスクは考えなかったのか?」
美しい翠の視線に見定められるように見つめられたフヨウは募る思いをカツラに吐いた。
「つらかったんです。カツラさんが恋人と仲良くしているのを見て。リスクとか考える余裕なんてなかった」
「お前と俺は合わないよ。お前のそういうところ、俺、無理」
カツラに改めて否定され、フヨウは膝から崩れ落ちそうになる。涙をこらえてカツラの話に耳を傾ける。
「タイガはクソがつくほど真面目なんだ。俺はあいつのそういうところに惚れてる」
カツラがフヨウに伝えた事実にフヨウは落胆した。カツラは本音を話してくれている。だからと言ってはいわかりましたと簡単に切り替えられる思いならばこんな苦労はしない。
「なおします。いい加減なところ…」
カツラに少しでも近づけるのならフヨウは何でもするつもりだった。
「それがお前のいいところでもあるんだろ?」
しかしカツラからの返答はフヨウが期待したものとは程遠かった。
「だったら俺、どうしたらいいんですか!」
カツラは困ったような顔で微笑んだ。そしてそっとフヨウを優しく抱きしめた。フヨウはいきなりカツラの匂いに包まれ胸がときめいた。
「フヨウ、お前の気持ちはわかる。やりきれない気持ちも。俺のことをそこまで思ってくれてありがとう。でも俺はお前に応えてやれない。お前自身を見てくれる人に目を向けろ。俺はお前の友達でいるよ」
フヨウはカツラに抱きしめられた瞬間もう死んでもいいと思った。ずっとずっと恋こがれてきた人からの抱擁がこんなにもいいものだなんて知らなかった。
しかし、優しく諭すように話すカツラの言葉は残酷だった。フヨウは涙が溢れ流れた。
「うっ、うっ…カツラさんっ」
「お前、泣くなよぉ」
カツラがフヨウから離れフヨウの頭を撫でた。
フヨウが涙をぬぐい見上げると優しく微笑むカツラがいた。フヨウが最初に恋に落ちた笑みだ。
「顔、洗ってこい。戻ったら気合い入れて仕事すんぞ?」
フヨウは顔をぐちゃぐちゃにし、泣きながらなんとか笑おうとレストルームへと向かった。
カツラは視線を感じそちらに目を向けるとホリーと目があった。彼女は一部始終を見ていたようだ。ホリーも困ったような笑みを見せていた。
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