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第147話 11-29

「ホリーさん、お疲れ様です。フヨウも」 「ごめんね、ウィロー。休みの日に呼び出して」 「大丈夫です。暇してたんで」 今日ウィローは休みだった。店が閉店近くになった頃、ホリーから飲みに行かないかと連絡をもらった。待ち合わせの店に着くと、しょんぼりとしたフヨウもいた。ホリーの話によるとフヨウを励まそうとのことだ。昨夜の件だろうと思い、ウィローは席についた。 「フヨウ、今日はホール失敗しなかったじゃない」 早速ホリーがフヨウに話を振る。 「はぁ...」 「今夜は誰がフォローについたんだ?」 「マキとセージと...カツラさんです」 「そっか。大丈夫だったろ?」 ウィローはフヨウの様子を探りながら今夜の件を聞いた。するとフヨウの目から涙が流れた。 「えっ!フヨウっ?」 「すみません、俺...」 慌てるウィローにホリーが説明する。 「カツラが今日開店前にフヨウを振ったのよ」 「ええ!?」 よりによって開店前に。 昨夜カツラはウィローが見たことがないほどブチ切れていた。フヨウとユーリが事務所へ行った後、カツラもその場を去ったのだ。 しばらく戻らないカツラを心配しウィローはカツラを探したが店内にはおらず、外に探しに出ると彼は裏口のドアの前につっ立って空を見上げていた。ウィローに気付いたカツラはもういつもの彼だったのだが。 そんなカツラを目にしたウィローだからこそ、カツラとフヨウの間で今日いったいなにがあったのか気にかかった。 「俺、カツラさんに振られるのもう何回目か...。でも今日のはもう完全に望みはない感じで。優しく諭すように言われました。俺とじゃ無理だって。でも友達でいるからみたいな。カツラさん今までで一番優しくて...。それがなんか余計に...」 フヨウはそのまま重ねた肘の上に顔を乗せしくしくと泣き始めた。 「ええと...」 全く話が読めないウィローはホリーに視線を向け助けを求めた。ホリーは今日見たことをウィローに話した。 「私は昨夜のこと知らなくて。カツラに聞いてもなにも教えてくれないし。勘違いしてカツラがいる前でフヨウに聞いてしまったの」 ホリーはフヨウに聞こえないようひそひそ声でウィローの耳元で話した。店の女子たちの間で秘密の連絡網があることにウィローは驚いた。 「フヨウ、カツラさんの思いやりだよ。カツラさんがフヨウのことを大切な仲間だと思っているからこそ、そう言ったんだと思う」 「そうよ。フヨウだから振ったんじゃない。カツラにはタイガ君以外は無理なのよ」 「俺...店辞めた方がいいんですかね。このままじゃつらいだけだし。カツラさんから離れた方がいいのかと。でも...でもっ...もう会えないなんて絶対に嫌だし。頭ぐちゃぐちゃなんです」 「思ってくれてありがとうって言われたんでしょ?カツラにもフヨウの気持ちは伝わっているわ。私たちはフヨウに続けてほしい。せっかく仕事できるようになってきたし。いろいろあったけど、あんたなんだか憎めないしね」 フヨウは今日はもう帰りますと言って先に店を出た。明日明後日とフヨウは連休だ。気分転換ができればいいがとウィローは彼の寂しい後ろ姿を見送りながら思った。 「今回は傍から見ているこっちもなんだか疲れました」 「確かにそうね」 「一波乱どころじゃなく、二波乱、三波乱もありましたね」 「カツラが変わったせいかもしれないけれど。カツラ、うまく立ち回れていなかったわね」 「カツラさんもきついんじゃないかな」 「カツラは今まで自分に思いを寄せている相手にここまで寄り添ったことないんじゃない?」 「ですよね」 「あいつ、本当に変わったわ。タイガ君が変えたってことでしょ?」 ホリ―がウィローに詰め寄った。 「ウィローったら、タイガくんとのこと、全然気づかなかったの?」 「最初は怪しいと思ったんですよ。カツラさんが客に酒を奢るなんてなかったから」 「そうなの?それってめちゃくちゃわかりやすいじゃない」 「ただ、一時タイガさん、全く店に来なくなった時があったんで。気のせいかと思って」 「それが避けられたってこと?」 「どうなんでしょう?カツラさんから聞かないと...」 「私はカツラとタイガ君のなれそめに興味があるわ。カツラは絶対に言わないだろうけど」 「まぁ、きっかけはカツラさんの奢った酒だと思いますけどね」 あんな美形が自分にだけずっと酒を奢ってくれていたと知ったらどんな気持ちになるのだろう?衝撃を受けるし期待するだろう。 ホリーとウィローはタイガの気持ちを想像していた。しばらく無言で酒を飲む。 「フヨウがどうするかはわからないけど、とりあえずは区切りがついたのかしら」 「そうですね」 「カツラは完全に一線を引いたから。さすがにフヨウもね」 ホリーとウィローはもう何度目かわからないカツラを巡る人間関係のゴタゴタの終了を今回も終わったと二人で宣言し、お疲れ様とこっそりと乾杯をした。

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