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第148話 11-30
「いらっしゃいませっ」
「よぉ!」
「え!クレム。どうしてここに..?」
「なかなかいい店じゃん。ってかすごい酒!お前覚えられんの?」
フヨウは急に店に顔を出した友人のクレムの相手はさっさと切り上げ、彼をサワラの担当する入口側のカウンターに座らせた。
まさかクレムがわざわざ店にくるとは思っておらず店の名前を教えてしまった。自分は客の対応や料理の用意で忙しいのに、知り合いがいると仕事がやりにくい。
最後に会ったときに男性を好きになったと相談してしまったから、きっとそのことに興味を抱いているにちがいない。半分は面白がっているはずだ。
フヨウはカツラにはっきり振られたが、彼への思いは秘めていた。本気であったためまだ気持ちにケリをつけられていない。
しかしこれからは自分の気持ちを他にむけるようにするつもりではいた。しかもユーリとの件もある。時間が解決してくれることを信じてやっていくしかないのだ。こんな状態のため、今はそっとしておいてほしかった。フヨウは友人にあれこれ詮索される気分ではなかった。
今夜カツラは厨房だ。よっぽどのことがないと店内には出てこないからおかしなことにはならないと思ったが、一抹の不安はある。
しかし週末のせいで店は混み合い、いつのまにかフヨウはクレムの存在を忘れ、仕事に集中していた。
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「この店いいっすね。お兄さんはよく来るんすか?」
「いや、最近は来ていなくて」
タイガは久しぶりに『desvío』に来ていた。
今夜はカツラからウィローとホリーは休みだと聞かされていた。花火後、何となく気恥ずかしく、できればあの時のメンバーがいない時に店に行きたかったタイガは、カツラの話を聞き、今夜彼には内緒で店に来たのだ。
タイガがいつも座る場所からはあまりよく見えないが、シュロはカウンター奥に店長と一緒にいるようだ。そしてタイガの正面には学生らしきバイトの新顔がいる。ヒョロっとした長身、焦茶の髪、眼鏡の奥には知的な茶色の瞳がのぞいている。彼はなかなかしっかりしていて、酒のことはカツラに比べたらまだたどたどしいが、分かりやすく丁寧に説明してくれた。
彼の名はサワラといい、大学一年の時からここでバイトをしているらしい。来年大学院にあがると教えてくれた。
サワラは愛想が良く、気分よく酒が飲めそうだと思っていたら、視界の端にフヨウの姿が目に入った。フヨウはまだ厨房でくすぶっているのだと思っていたタイガは、彼がホールにいるのは意外だった。主にテーブルの方で忙しく動いているフヨウはこちらには来ないだろうとタイガは気にしないことにした。
そして今夜偶然隣に座った男とは気が合い、楽しく話をしながら酒を飲んでいた。
「俺のダチがやっかいな恋に落ちちゃって」
「へぇ、どんな?」
「そいつ、ノーマルなんだけど、男を好きになったみたいで。もう未練タラタラ」
「つき合ったのかい?」
「そこんとこは詳しく聞いてないんだけど、嫌われたってぼやいてたから。そいつ、適当な奴だから。また相手の気持ちも考えずに嫌がることでもしちゃったのかなって」
「素直に謝ればいいんじゃない?」
「そうなんだけど...。かなり怒らせたのか取りつく島もない感じで」
「そっか」
そういう場合はどうしたらいいのだろうとタイガは真剣に考えていた。
「ま、俺は一発抜いてこいってアドバイスしたけどね」
「え?」
「そういう店あるでしょ。そこでヌいてこいって。男とできるかどうかも確認できるし。でもあれはベタ惚れだな。ヌいたからって忘れられるとは限らない感じがしたし」
「ははは、すごいな」
世の中には自分とはまったく考えの異なる人間がいるのだとタイガは感じた。自分なら好きな人の代わりに誰かを抱くなど考えられない。
その時、カウンター中央の厨房側から人影が出てきた。目を引く長身。カツラだった。彼がいる場所には新顔のバイトらしき子がいる。フォローに出てきたのだろうか。
タイガがしばらくの間目が離せず見ていると、カツラがこちら側に振り返り目があった。彼は一瞬驚いた顔をした。そして当然だが、そのままタイガの元に来た。
「こんばんは、いらっしゃい」
「こんばんは」
カツラは主にタイガに七割がた向けて言ったのだが、彼の隣に座るクレムがカツラの姿を目にし、息を呑むのがわかった。
「えと...」
滅多にいない超絶の美形を目にしてクレムは言葉が出なかった。「すっげー美形。男にしとくのもったいなぁ。いや...こいつならこのままでも俺イケるぞ、多分」クレムは恥じることなくカツラをまじまじと見ていた。
「お客さん、グラスが空いてるね。なにか飲む?」
カツラがクレムに尋ねた。
「お兄さん、なにかオススメある?」
クレムはカツラとの会話を楽しもうと逆に質問した。
「そうだな...。サワラ、お前どう?」
カツラが隣で接客していたサワラに振った。タイガはカツラがサワラの教育をしているのだと気づいた。振られたサワラは持っている酒の知識を総動員し一つの酒を手に取った。カツラが微笑む。とても魅力的な笑みだ。サワラもクレムも彼の笑みを見、つられて微笑む。
透明な澄んだ酒がグラスに注がれる。
「うん、旨い!ちょうどこういうの、飲みたかったんだ」
「そう、よかった。お客さん、今夜初めて?」
客向けの最高の笑顔を向けたあと、ずっと前からの知り合いのようにカツラが話しかける。
「うん。実は友達 がここで働いていて」
「え?そうなんだ」
カツラも隣にいるサワラも驚いている。
「誰ですか?」
サワラがクレムに尋ねた。
「薄情な奴だ。最初に話したっきり全然こっち来ないな」
「もしかして...フヨウさん?」
サワラがずばりいい当てた。
「え!」
タイガは思い切り大きな声を出してしまった。タイガの声に反応し、カツラもサワラもクレムもタイガに注目する。「ちょっと待て!冗談じゃないっ!男を好きになったって...。それってカツラのことじゃないか!」
タイミング悪く、クレムがフヨウの友人であることが判明した時にフヨウがクレムの元に来た。
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