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第149話 11-31

フヨウは仕事が少し落ち着いたので友人のクレムのことを思い出した。クレムが座る席に目をやると、そこにはカツラがいた。 これ以上カツラの自分に対する印象を悪くしたくないフヨウは咄嗟になんとかしなければと思い、クレムがいるカウンターに近づいた。 「クレム、もうそろそろ帰った方が...って、え!!」 自分に向けられた刺すような視線を感じクレムの横を見ると、そこにはカツラの恋人のタイガがいた。タイガは思い切り不機嫌な顔でフヨウを睨んでいた。 「タイガくん?いらっしゃい」 フヨウはタイガに向けて愛想笑いを浮かべた。 「えっ?フヨウ、知り合いなのか?」 一人なにもわかっていないクレムがタイガとフヨウの顔を交互に見た。 「まぁ、いろいろと...」 フヨウはなんとかクレムを帰らせようと考えながら言葉を濁した。 「このお兄さんに聞いてもらってたんだよ。お前の前途多難の悲恋をな。で、どうなった?ヤれたか、男と??」 クレムの言葉は事情を知っているカツラとサワラには話の内容が推測できた。フヨウはカツラの身代わりに女だけでなく男でも試したのだと。 自分が止める前にクレムがいきなり核心をつく話を暴露してしまった。フヨウは「ははは」とごまかしながらカツラを横目で見る。カツラは呆れはてたような冷めた目でフヨウを見ていた。カツラの隣のサワラは気まずそうに俯きグラスを拭いている。 「カツラさん、違うんですぅ!」 「俺にいちいち言い訳するな!関係ないっ」 カツラが冷めた声で冷たく言い放った。 「え?」 クレムはフヨウとカツラのやり取りを聞いてようやく理解した。フヨウの恋の相手が目の前にいる美形だと。「あの人は特別で...」フヨウの言っていた言葉を思い出した。そして改めて目の前の男を見る。 確かにかなり美しい男だ。色気もある。言い寄られたら男でも女でもほぼ全員が落ちる。クレムは唾を飲み込んだ。 「カツラさぁん...」 「その甘えた言い方やめろっ。お前しつこいぞ」 なおも甘えた声でカツラの名を呼ぶフヨウにタイガが言い放った。 「え?」 クレムはわけがわからなかった。今の言い方...彼はこの目の前の美形の友人なのだろうか。 「タイガ、今夜は帰れ」 この場から立ち去らせようとするカツラにタイガは噛みついた。 「俺に知られたらまずいことでもあるのか?」 「ないよ」 カツラは目を見開いて答えた。 「フヨウはパパになるんだもんな?」 「え?」 「え?」 タイガとクレムが同時に聞き返す。 「カツラさん、まだ決まったわけじゃ...」 「病院に一緒にいくんだろう?」 「いったいどうなってるんだ?」 「いったいどうなってるんだ?」 話が見えないタイガとクレムがまたも同時に同じ言葉をはもった。 「だからそれは追々...」 言いながらカツラがタイガの伝票に手を伸ばした。このまま会計をするつもりだ。 「カツラっ」 タイガは立ち上がりカツラの後を追いそのままレジの前まで来た。 「家で話すから」 じっとカツラを見るタイガにカツラが言う。 「当然だがさっきの話に俺は無関係だ。フヨウが勝手にやっただけで」 「わかった。今夜家で話そう」 カードを受け取った時、タイガはカツラの手を握った。カツラは「愛してる」という眼差しでタイガを見つめ見送った。 カツラはクレムに「ごゆっくり」とにっこり微笑みそのまま厨房に戻ってしまった。残されたフヨウはおろおろとサワラに視線で助けを求めたが、サワラもそれは困るというふうに違う客の接客をし始めた。 「今仕事中だからさっ」 「お前の思い人ってさっきの美形だろ?あいつ、先帰ったお兄さんとできてんのか?」 「お兄さんじゃないっ。俺たちと同いだ」 「マジか?落ち着いててかっこいいんだけど!」 「中身は俺たちと変わんないよ。後でな」 フヨウはとりあえずそうクレムに伝え、自分のホール業務に戻った。事の顛末を聞いたらクレムは爆笑するに違いないとフヨウは自信を持って言えた。

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