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第151話 12-1

「ね、カツラ、カツラったら!聞いてる?」 「あ?」 「なによ、ぼけーっとしちゃって。来週末のシフトの件、話し合おうって言ってたでしょ?マキもカヤも休みでしょ?カウンターは店長にも出てもらうとして...」 ホリーは必死にシフトの組み合わせを考えているが、頼りのカツラは今だに心ここにあらずだ。ホリーはシフト表から顔をあげ、一昨日を見ているようなカツラの頬をぎゅっとつねった。 「ってえ!!」 「なにすんだよ!!」 ようやくカツラの意識が今いる場所に戻った。 「さっきから、わたしがいってること頭に入ってる?」 「え...」 「えぇとっ...」 「タイガ君となにかあったの?」 深い意味はなく言った言葉であったが、カツラが目を見開き反応を示した。 「どうしたの!喧嘩?」 ホリーは興味深々と言った感じで尋ねた。 「違う。あのさ...」 「なに?」 カツラにしては珍しく言いよどんでいる。 「ホリーは今の彼と結婚考えてないのか?」 「え?」 「それはまぁ。このままつきあっていたら追々は...」 ホリーもあまり得意な話ではないらしい。 「彼のご両親とはまだ会っていない?」 「それはまだ。結婚って具体的に話が出ているわけじゃないから」 「そうか」 「カツラ、タイガ君のご家族と会うの?」 「あ、うん。まぁ...。タイガの叔父さんだ。よく世話になっているらしい。今勤めている会社の社長だしな」 「ええっ!そうなんだ。やり手なのね」 「タイガに近々会ってほしいと言われた。タイガのおやじさんは、今は遠くにいて。こっちに戻ったら顔合わせだろうなと思っていたから」 「いきなり叔父さんに会ってと言われて戸惑っているのね?」 カツラは恨めしそうな顔でホリーを見た。カツラにも尻込みすることがあるなんて意外だとホリーは思った。 「カツラ、上面(うわっつら)得意じゃない」 「なに言ってんだ。本命だぞ!そんな適当なことできるか」 カツラの言葉にホリーは一瞬息を呑みこむ。「驚いた。マジでタイガ君に惚れてるのね」ホリーは機会があればカツラとタイガのなれそめを絶対に聞き出してやろうと思った。難攻不落に見えたカツラをここまで夢中にさせるとは。 「一人で悩んでないで、タイガ君に相談すれば?まだ少し待ってほしいって」 「俺は別に急いでいるのが嫌ってわけじゃない。俺だってタイガと早く婚姻は結びたいし」 微笑みながらそう答えるカツラにホリーはカツラが本当にタイガのことが好きで仕方がないのだと思った。「カツラは変わった。束縛なんて絶対に無理なタイプだったのに」 「まぁ、顔を合わせるだけでしょ?緊張するのはわかるけど、そんなに構えなくていいんじゃない?」 「まぁ、そうなんだけど。当然だけど初めての経験だ。こんなこと、自分の人生には関わりのないことだと思っていたから」 「何事も経験ね。会ってそのまま結婚ってわけじゃないんだから肩の力抜いていけば?カツラは第一印象は悪くないんだから」 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――  その週末、カツラはタイガの叔父と会うことになった。カツラが休みだとわかると、彼はわざわざ予定を空けてくれたらしい。都合がいいときで大丈夫だとタイガに伝えたが、タイガは急いでいるのか、気にすることはないと言いそのまま顔合わせの予定を入れてしまった。 「緊張することないよ。食事するだけだし。叔父さんは気さくな人だから」 そうは言ってもカツラは緊張する。タイガは叔父とよくアウトドアに出かけるらしく、その日も郊外の自然の中でバーベキューをしようということになった。 「料理だから、カツラの得意分野だろ?」 タイガは顔合わせが決まってからはなんだかご機嫌だ。カツラは動きやすく清潔感のある服装を選びソワソワした気分のまま現地へと向かった。

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