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第152話 12-2

 タイガの叔父は先に現地に着き、もくもくとバーベキューの準備をしていた。早朝にも関わらず、ほぼ準備は全て(とどこお)りなく済んでおり、伝え聞いた通り彼はアウトドアに精通しているようだ。 遠目に叔父の姿を確認すると、タイガが手を振りながら声をかける。 「叔父さん!」 タイガの呼び掛けに叔父が振り向いた。彼はタイがの隣にいるカツラを見てほんの一瞬視線ととどめ、すぐにフレンドリーな感じで答えた。 「タイガ、おはよう」 間近で見る叔父はどことなくタイガに似ていた。タイガより一回り程体格は小さいが、それでも並の男よりは目立つだろう。タイガとは異なり深いブランの瞳、髪は同じ鳶色をしていた。さすが社長だけあって威厳はあるが、人を惹きつけるオーラのようなものをカツラは感じた。 「叔父さん、カツラだ。カツラ、俺の叔父さん」 「ようやく会えたよ。タイガが世話になってるね」 「はじめまして、カツラです。こちらこそ世話になっています」 二人は握手を交わした。 「早い時間からすまないね。早朝の珈琲でもどうかな?」 叔父はタイガたちと合流したら一服しようと珈琲の用意をしていた。彼の用意した椅子に腰を下ろしいよいよ顔合わせが始まった。 カツラはがらにもなくガチガチに緊張していたが、叔父はフランクでカツラに気付かってくれているようだ。面接のような質問攻めではなく、ごく普通の世間話や趣味についてなど気軽に話せる内容のものだった。 「なかなか興味深い店だね。一度行ってみたいな」 「酒の量に圧倒されるよ。カツラは酒の説明も上手くて」 「是非いらしてください」 タイガは始終カツラをべた褒めだった。好きで好きでたまらないという目でカツラを見ながらカツラの良さを叔父に知ってもらおうと一生懸命に話をしていた。 「カツラくん、あっちに(まき)があるんだ。一緒に取りに行ってもらってもいいかな?」 一時(いっとき)ほど経った頃、叔父がカツラに声をかけた。 「叔父さん、それなら俺がっ」 「タイガ、行ってくるよ」 カツラが引きとめるタイガを制し席を立った。カツラは叔父と二人、薪置き場の方へと行ってしまった。タイガは置き去りにされた子犬のような表情で二人を見送った。 「タイガは君にべた惚れのようだ」 叔父は軽く微笑みながら二人についての感想を述べた。 「ありがたいです。俺もタイガに惚れています」 「君は...女性もいけるんだろ?いいのかい?」 叔父は立ち止まりカツラに真意を訪ねた。おそらく将来的にということだ。 「俺は...タイガの子供はほしいですよ。でもまずはタイガが第一ですから。タイガがいないとだめなんです」 カツラは真っすぐに叔父の目を見て自分の考えを述べた。これは本心だ。タイガに出会って始めて人を愛するということを知った。 「君はかなり魅力的だ。どうしてそこまでタイガのことを好いてくれているのか...」 「理由なんてありません。タイガとは魂で惹かれ合っているような気がする。自分で言ってサムイんですけど」 少し照れながら視線を落として話すカツラは美しく、叔父はタイガの手に負えるだろうかと少し不安を感じた。 タイガから頼まれていたことについてもう少し検討したかったが、今カツラの気持ちを聞き、二人の気持ちが決まっているのなら自分が迷う必要はないと思いなおした。 「僕としては君が家族になるのは大歓迎だ。これは君からタイガに渡しておいてくれ」 カツラは叔父の言った言葉に一瞬驚いた。「今日は顔合わせだけのはず。他になにかあるのか?」 そう思っていると叔父が胸ポケットから一枚の折りたたまれた紙を取り出した。そして彼はそれにサインをする。よく見るとそれは婚姻届けだった。

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