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第156話 13-1

 今取り組んでいる案件が片付いたらカツラの祖父に会いに行く。それは二人の婚姻届けの完成を意味する。はれて夫婦となるのだ。  カツラの祖父は学校で美術の教師をしている。彼は長期休暇には自分の描きたいものを求めてふらりと出かけしばらく戻ってこないらしい。タイガはなんとしてもその前に祖父に会って婚姻届けに署名をしてもらいたかった。  あの日。叔父にカツラを紹介した日。タイガは婚姻届けの件をカツラに言えずじまいだった。急ぎすぎだと自分でも自覚していたタイガは拒絶されたらと思いカツラに伝えることができなかった。しかしカツラはなんの抵抗もせずに婚姻届けにサインしてくれた。そのことがタイガはたまらなく嬉しく、あれから毎日が充実している。  タイガは明日から一週間の出張に出る。さっさと今取り掛かっている仕事を片付けるためにやむなく出張に行くことにした。カツラと離れるのは嫌だが婚姻届けのせいか以前より気持ちに余裕があった。 明日からはしばらく会えない。今夜カツラが帰宅したら思い切り彼を抱くつもりだ。タイガは早く家に戻りカツラが喜ぶよう部屋を掃除しカツラの帰宅を待ち侘びた。 「タイガ?ただいま」 「カツラっ!おかえり。!!」 タイガは玄関までカツラを出迎えた。今夜は彼と深く深く愛し合うつもりでいた。 しかし、カツラの足元に隠れる幼い少女に視線が釘付けになる。「なんだ?この子...?」 「タイガ、ちょっと訳合って友人の子を預かることになった」 カツラがタイガの視線に気付き事情を説明した。 友人の子...。カツラに隠れながらタイガに視線を向ける少女は6歳ぐらいだろうか?彼女はカツラと同じ黒髪に翠の瞳をしていた。「偶然か?顔立ちは全然ちがうしな」その少女は幼いながらのかわいさはあったが、一般的に言うかわいいや美人という言葉がお世辞にも言える顔立ちではなかった。 「こんばんは」 タイガは怖がらせまいと笑顔を作り少女に挨拶をした。 「...」 「ミナ、挨拶は?タイガだ。俺のパートナーだよ」 「こんばんは。…。タイガ嫌いっ」 「え?」 「タイガ、気にするな。ミナ、どうする?風呂、一緒に入るか?」 カツラがミナの手を引きリビングに向かいながら尋ねた。 「ミナ、ママとしか入らない。他の人とは入っちゃダメってママから言われてる」 「へぇ、ちゃんと躾けてんだな」 「カツラ...」 カツラが振り向きタイガに口だけで伝える。「後で話す」と。 「おやすみなさい…。本当は一緒に寝たいんだよ。でも、でも…。ちゃんとするまでママがだめだって」 ミナは口を尖らせながら言った。彼女は離れたくないのかカツラの足にしがみついている。 「わかってるよ。ママの言うこと聞いてえらいな、ミナは」 カツラがミナの頭に優しくポンと手を置く。ミナは顔をあげ、とびきりの笑顔でカツラに言った。 「おやすみなさい、パパ」 タイガは耳を疑った。「は?パ…、パパだってぇっ!?」金縛りにあったようにその場に固まる。 「おやすみ」 ミナがタイガの部屋に入っていった。今夜、ミナはどうしても一人で寝ると言い張り、タイガの部屋に急遽、彼女のための簡単な寝床を作った。ミナの言った一言にタイガが絶句していると、カツラが振り返りタイガに小声で言った。 「パパじゃないんだけどな」 「いったいどういうことなんだ?」 「明日から出張だろ?話、長くなるぞ?」 「そんなこと、かまわないっ!こっちのほうが重要だ!」 カツラは軽くため息をつき、タイガに今日あったことを話し始めた。

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