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第159話 13-4

「これ、ママにつけるように言われた?」 カツラはミナがつけていた翠のカラコンを眺めながら尋ねた。 「これをしたらパパと同じになるからって。すごく綺麗な色だったし。パパ、本当に翠の目で」 まだ6歳の子にカラコンをつけさせるなんて。いったいどういうつもりだ?カツラはエリアがしたことに憤りを感じた。 「だから昨日は一人で寝たのか?ちゃんとこれ外して寝た?」 「うん。ミナの本当の目の色を見られたらおまじないが上手くいかないって」 「おまじない?」 「パパと一緒にいる間にミナの本当の姿を見せちゃダメだって。パパと一緒に暮らせないって」 ミナはまた泣き始めてしまった。 「まさか髪の色も変えている?」 ミナはカツラの質問に黙って頷いた。欺くために我が子にここまでさせるとは。カツラはエリアを厳しく問い詰めなければと思った。 カツラはその日ようやくエリアと連絡がとれ二日後に再会する約束をする。要件は伝えなかった。とにかく会ってエリアと話さなければと思った。 「カツラ、久しぶりね」 大学卒業以来初めて顔を合わすエリアはかつての面影は残しつつも年齢による落ち着きがあった。焦茶色のショートヘア、眼鏡の奥のグレーの瞳。バリバリのキャリアーウーマンらしく彼女からはエネルギーが溢れている。 「本当に久しぶり」 「ミナは?」 「知人にみてもらってる。二人の方が話しやすいと思って」 カツラはエリアを地元の公園に呼び出した。有名な建築家がデザインした公園でカップルや家族連れに人気がある。二人は噴水前のベンチに腰を下ろした。 「あの子、かわいいでしょ?しっかりさんでいい子なの」 「いい子だと思うよ。でもどうしてあんな嘘を?」 エリアはカツラの言葉に息を呑んだ。そしてカツラの顔を見、失敗をごまかすように笑いだす。 「あーあ。やっぱりばれたか」 カツラはエリアの言いように信じられないというふうに尋ねた。 「だいたい計算があわないだろ。髪や瞳の色まで変えて。ミナがかわいそうだと思わなかったのか?」 エリアはカツラがなにもわかってないというふうに自嘲気味に笑い静かに言った。 「ミナには...自信を持ってほしかったの。カツラが父親なら少し自信が出るかなって」 「はあ?なんだよそれ」 「私の部下の...女性部下の娘がミナと同級生なの。それはかわいい女の子で。なにかと一緒になるのよ。部下も仕事は全然なんだけど子どもの器量で勝ってるもんだから」 カツラがよくわからないというように片眉をあげるとエリアは全くもうという表情をつくりわかりやすく説明し始めた。 「カツラはとびきりの美人だからわからないかなぁ。」 エリアは軽くため息をついた。 「部下の娘がミナをターゲットに意地悪をしているの。親は見て見ぬふりよ。ミナが私の娘だからあてつけね。こどもは親の真似をするっていうでしょう?親がきっと私の悪口を言っているのよ」 カツラは無言で聞いていた。それと自分がどう関係するのかいまだにわからない。 「ミナは嫌なことが続いて卑屈になりかけていた。せめて父親がカツラなら、自信を持てるんじゃないかと思って」 「え?」 「カツラだったら、部下夫婦なんてめじゃないもの」 「あのな...」 そんな奴らは放っておけばいいのに。カツラはそう思ったが、エリアだけのことなら彼女は無視しただろうと思った。娘のことでもあったから普通では信じられない行動に出てしまったんだ。 「ミナの本当の父親は?」 「だめ男よ。顔も仕事も...。一晩の過ちね。自業自得だけど、そんなやつを父親だととてもミナに会わせる気にはなれなくて」 聡明なエリアが我が子のために愚かな行動をとってしまう。「母親なんだな...」カツラは遠くを眺め学生時代のエリアを思い出していた。 「私、これでもカツラのこと本気だったのよ?」 エリアがぽつりとつぶやいた。カツラはエリアの告白に目を見開いた。 カツラのエリアの印象はサバサバしていて当時自分の周りにいる女性たちとは異なる存在だった。決してカツラにのめり込まない。あの時たまたま二人がフリーだった。タイミングが偶然合っただけでお互いを恋しく思う気持ちなどない。それがカツラの印象だったからだ。 「そんなふうには見えなっかった」 「カツラ、有名だったからね。女の子、とっかえひっかえだったじゃない。カツラに振られてみじめな子を見てきたし。私はみじめになりたくなかったから。カツラが私に本気になるとはとても思えなかったし」 エリアはカツラを見つめた。 「カツラ、変わらないわね。前より色っぽくなった?相変わらず遊んでるの?」 「俺は今婚約中だ。ミナのせいで一波乱起きる所だった」 「本当に!?」 カツラの告白にエリアは心底驚いたようだ。 「カツラを射止めるなんてどんな人か興味あるな」 「ミナの瞳の色は綺麗だよ。それにエリアはまだ若いのに重役だ。なにも恥じることはない。ミナはエリアに似ている。とてもしっかりしているし」 カツラはエリアとミナについて感じたままに話した。この二日間、ミナと二人で過ごした。親子ではないがお互いに楽しい時間を過ごした。 「カツラ...。なんだか変ったわね」 「そうか?」 「人間らしくなった。ふふふっ」 エリアの言葉にカツラはそうかもしれないと思っていた。「タイガが俺を変えた」カツラは今は出張中で会えないタイガに思いを馳せる。「タイガは俺の全てだ」 「ミナがお友達のターゲットから解放されるんなら一肌ぬぐけど?」 「カツラ!本当?」 「ああ。大人のイザコザにこどもを巻き込むのはよくないよな」 「ありがとう。ミナ、喜ぶわ」 「今回の件、ミナにあやまってちゃんと話しろよ?」 「ええ、当然そうするわ」 カツラとエリアは二人で公園をあとにしミナを迎えに行った。

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