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第160話 14-1

「ミナ、ママと俺は友達だから」 カツラはミナと視線を合わせ優しく語りかける。 「また会える?」 「うん」 「カツラ、ありがとう。迷惑かけたわ。あの約束、お願いね」 了解とカツラは親指を立てて見せた。エリアとミナは自分の家へと帰っていった。 カツラはエリアと約束した通りその週末、ミナの幼稚園の運動会に参加した。ミナの父親の代わりに親子の競技にミナと一緒に取り組んだ。雑誌から抜け出たような長身の超美形にその場にいるほとんどの者が目を奪われた。 もともと子供好きなカツラは寄ってくる子供達にも人気で、帰るときにはなかなかその場をあとにすることが難しかった。 「で?」 エリアがからかうような目でカツラを見た。 「なにが?」 「今日は何人にナンパされた?私が目にしたのは5人だけど…?」 「あのな…。イチイチ数えてない」 「ご愁傷様。カツラのフィアンセには同情するわ。でも、ありがとう。おかげでミナは大丈夫みたい」 カツラの存在が功をなしたのかミナは仲間外れのターゲットから解放されたらしく、そのまま友達の家に遊びにいった。 「しかも、あの子のカツラを見る目!旦那さんもやばかったわよね?」 エリアは自分の部下がカツラに向ける視線を思い出し意地悪に笑った。しかも旦那のほうまでカツラをチラチラと見ていたのだ。胸のすく思いなのだろう。 「お役に立てて、よかったよ」 カツラも思い切り体を動かし気分は爽快だった。 なによりも今夜、タイガが出張から帰ってくるのだ。タイガのことを思うと体がムズムズした。婚約してからタイガにこんなに長く抱かれていないことがなかった。「はやく、はやく会いたい」カツラは急ぎ自宅に向かった。 カツラの家は四階建のアパートだ。階段で自分の部屋の三階まで上がる。 するとそこには珍しく大家がいた。彼は脚立の上に腰を掛け、階段を上がってすぐの廊下の電球を替えていた。 「こんにちは」 カツラは大家に挨拶をした。 「こんにちは。今日はなにかあったのかい?」 「まぁ、ちょっと」 「悪いがそこのドライバーとってもらっていいかな?手が離せなくて」 「いいですよ。これかな?」 「そうそう、ありがとう」 カツラが大家にドライバーを渡そうとした瞬間、大家が登っていたはしごから落ちてきた。咄嗟のことでカツラは梯子から倒れ落ちる大家を抱きかかえることに精一杯で、今自分がいる足場を考える余裕がなかった。 ドッドッドドド、ドサッ!! カツラと大家は二人で階段を転げ落ちた。カツラは頭を打ちつけ意識朦朧とする中、愛する者の名を呼んだ。 「タイガ…」 目を覚ますと店長とホリーが心配な顔でカツラのことを覗きこんでいる。カツラは病室のベッドにいた。 「カツラっ!!私、先生呼んでくるっ」 涙ぐんだホリーが慌てて病室を飛び出した。 「カツラ、大丈夫か?階段から落ちたんだ。覚えているか?」 店長がカツラの様子を伺うように尋ねた。 「いってぇ…」 カツラは体を起こそうとするが頭がズキズキと痛んだ。手をあてると大きなたんこぶができている。 「無理するなよ。脳震盪を起こしたらしい。大怪我しなくてよかった」 「ホリー、ナースコールすればいいのに。相変わらずだな」 カツラが痛みを我慢しながら苦笑いをした。 「大家さんが戻ってこないから、管理人が様子を見にきてくれたんだ。大家さんは残念だったが」 「大家が?」 「脳梗塞だ」 勢いよくドアを開けホリーが戻ってきた。 「カツラっ。先生すぐ来るって。そこでタイガ君にも会って」 ホリーのすぐ後ろにタイガがいた。心配そうな顔だったが、カツラの顔を見てぱっとタイガの表情があかるくなる。 「タイガ?」 「カツラっ!仕事がはやく終わったから。ちょうどウィローから連絡もらって。すぐ帰ってきたんだ。よかった、無事で!!」 タイガは病室に入るなりカツラに歩みよりカツラの手を握った。そのままカツラの顔に触れようとする。 「おい、馴れ馴れしいやつだな。お前、誰だ?」 カツラは冷めた目でタイガを見、彼の手を振り払った。

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