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第180話 15-6

カツラの部屋は階段を上がってすぐ左手にあった。 向かいにも部屋が一部屋ある。物置のようで今は使われていないようだ。中を覗くと手芸用品や色とりどりの布が置かれている。 「ここは亡くなったばあさんの趣味の部屋なんだ。ソロの部屋はこの下の一階の部屋だ」 カツラの部屋は広々としていた。当時からものをあまり持たない性質(たち)だったらしい。 ベッドと華奢なデスクがあるだけだった。 ドアの左手壁にはウォークインクローゼットがあり、カツラは部屋に入るとそのままクローゼットに手をかけた。 中にはハンガー数本とチェスト、本棚があった。カツラは本棚を覗き込み、濃紺のカバーの冊子を手にとる。 「タイガ、俺のアルバム。見るか?」 先ほど話していたものだ。タイガはもちろん大いに興味がある。 「うん」 カツラはベッドに腰掛けタイガも隣に腰を下ろす。そしてアルバムをタイガに手渡した。 タイガは初めて触れるカツラの過去にそっと胸を躍らせ表紙をめくった。 一枚目はまだ赤ん坊のカツラ。彼は大きな翠の瞳をした天使のようだった。両親に愛されていたのが分かる。写真は全てカツラ中心に撮られていて両親はそんなカツラを微笑ましく見つめている。 カツラが三歳ころになるともう女の子にしか見えなかった。綺麗な顔立ちに色白に赤く染まった唇が余計にそう見せているのだ。そしてそのころから、カツラの両親の姿はなくなっていた。まだ若いソロ、そしてカツラの祖母だろう、優しい青い目をした金髪の女性との写真が続いた。幼すぎたせいか両親を亡くしたカツラの表情は暗くはない。宝石のような瞳をした少年は美しく、彼の性別を知らない者はカツラを少女と見間違えるはずだ。 あまりにも食い入るように自分の写真を眺めるタイガにカツラは恥ずかしくなり、ベッドから立ち上がり出窓から外を眺めた。こちらから垣間見えるアルバムに向けるタイガの眼差しは真剣だ。彼はゆっくりとページをめくっている。タイガの様子からすると、最後のページまでたどりつくのに時間がかかりそうだ。 カツラが小、中、高と学年が上がるにつれて、彼が持つ美しさは開花されていっていた。男性か女性か...。本当に中性的で写真では見る者によっては意見が別れるだろう。 そしてタイガは気にかかった。小学校ぐらいから常にカツラの隣に一緒に写っている者がいた。やけに距離が近い。赤みがかったダークブラウンの髪に意志の強そうな濃い青い目。その少年はアルバムの終わり、カツラの高等部卒業まで共に写真に写っていた。おそらく友人の一人なのだろうと簡単に想像できたが、タイガはいつものごとく嫉妬を感じずにはいられなかった。 この時になってタイガはようやく隣にカツラがいないことに気付き、さっと部屋を見回した。カツラは退屈なのか出窓に腰掛け、外をぼんやりと眺めている。 カツラのことになるとタイガは歯止めがきかない。全て知り尽くしたくなる。カツラの過去も全て知りたくてついアルバムに夢中になってしまった。 今自分の目の前にいるカツラは完成形だ。成長を終え、大人の体をしている。人を惹きつける美しさも写真の中のカツラとは比べものにならない。「彼のすべてはもう俺のものだ」タイガは心の中でつぶやいた。そしてそっとカツラに近づき背後からカツラを抱きしめた。 「ん?見終わったのか?」 カツラがタイガの後頭部に手を回した。 「うん。カツラ、昔から綺麗だったんだな」 「なんだよ、それ」 カツラはタイガに振り返り優しく微笑んでいた。 「ここにお前といるなんて信じられない」 二人は両手を繋いでいた。 「こられてよかったよ」 タイガの薄いブルーの瞳が優しく自分を見つめている。カツラはタイガがほしくなった。 「タイガ...ダーリン、愛してる」 カツラがタイガに顔を寄せ口づけをする。舌を絡めるカツラにタイガも応える。ピチャピチャと口づけの音がした。 「カツラ、これ以上はっ」 タイガは我慢できなくなりそうになり、カツラから口を離した。 「タイガ、俺はおまえが欲しい、今すぐに!」 カツラは構わずタイガにキスをし続ける。 「カツラっ、でも下にはソロさんが...」 「ソロはいつもラジオを聞きながら料理する。俺たちのことなんて気にしていないさ」 「でもっ...」 「それに今日は腕によりをかけて料理するはずだ。ソロのローストチキンは時間がかかる」 カツラはタイガをベッドに押し倒した。 「タイガ、気にすることはない」 そうしてタイガの上にまたがり自分のシャツを脱いだ。

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