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第185話 15-11

食事は楽しく進み、カツラとタイガは分担して後片付けをしていた。そろそろ片付けが終わるころ、ソロがカツラに声をかけた。 「カツラ、先に汗流してこい」 しばらく姿が見えないと思っていたら、ソロは先にシャワーを浴びたのかタオルを首に掛け、ルームウェアに着替えていた。 「えっとぉ...」 カツラはタイガを気にかけ、タイガの方に視線を移した。 「大丈夫。カツラ先に行って」 「そうか」 タイガの言葉を受け、カツラが二階の自分の部屋に着替えを取りに向かった。 ソロはまた違う酒のボトルを持っている。タイガは今日ソロが言っていたことを思いだしていた。「酒でも飲みながら」いよいよなのだと腹をくくる。 タイガが思った通り、カツラの姿がバスルームに消えるとソロがタイガに声をかけてきた。 「飲める口なんだろ?一緒にどうだ?」 「はい、是非」 ソロが用意した酒はこの地方の酒だ。この辺の人たちが好んで飲む、クルミが含まれている酒。癖になる味わいだと説明してくれた。 タイガは酒を口に含んだが、緊張し味がイマイチわからなかった。確かにクルミの香ばしい香りがする。 「変わった味だろ?飲めば飲むほど癖になるんだ」 「そんな感じしますね」 グラスをテーブルに置き、ソロがタイガをじっと見た。 「カツラとはうまくやっていけそうか?」 「え?」 思いがけない質問にタイガは面食らった。どこが好きなのかとかどういう経緯で出会ったのか、何故男しかだめなのかなどと聞かれると思っていた。 「問題ありません。カツラ、すごく大人で」 「あいつはあまり物事に執着しない。物事だけじゃなくて人にもな。あんたには違うみたいだが」 タイガと出会うまでのカツラの人となりは何度か耳にしたことがあった。「他人に興味がない」と。実際記憶を失くしたカツラはどこかしら一線を引いたような冷たさがあった。さすが祖父のソロはカツラのそんな部分も理解しているらしい。 しかし、タイガにとってカツラは普通に血の通った人間で、それなりに自分に執着してくれていると自覚はあった。カツラに対しては何故か強い執着心を抱いてしまう自分の方がいつか愛想をつかされるのではと心配になるときすらあるぐらいだ。 「カツラが俺と同じように感じて思っていてくれることに感謝しています。本当にカツラが大切なんです。絶対に二人で幸せになります」 タイガは真っすぐにソロの目を見て言った。 「あんたはくそが付くほど真面目だな。カツラはいい加減な部分もあるだろう。大目に見てやってくれ。本気であんたに恋してるみたいだ」 ソロの言葉にタイガは心がゆすぶられた。 「もちろんです。心配いりませんから!」 真剣な眼差しのタイガの瞳は濃い色をしていた。ソロはふふふと微笑み再びグラスに口をつけた。 ソロは一般的な身内なら気にしそうなことを尋ねてはこなかった。楽観的というのだろうか、話しているうちにタイガもいつのまにかソロに打ち解けていた。カツラが以前、ソロのことを変わった人だと言っていたのを思い出した。いい意味で変わっているということか。 タイガはソロには知っておいてもらったほうがいいと思い、自分の生い立ち、勤め先などを話した。そろそろカツラの生い立ちについて尋ねようと思ったら、カツラがバスルームから出てきた。二人のことが気になったのか、すぐにダイニングへときた。 「また酒飲んで」 「地元の酒だ。カツラも飲むか?」 ソロがカツラにも酒を勧める。カツラはタイガの様子をそっと確認した。彼に変わったところはないようだ。心配はいらなかったかとそっと胸を撫でおろす。 「じゃ、バスルーム借りますね」 タイガが立ち上がり汗を流しに席をたつ。 カツラもグラスを持って来て、ソロの向かいに腰を下ろし酒を注ぐ。一口飲み、瞼を閉じ懐かしい酒の味を味わっているとソロが口を開いた。 「明日は釣りに行くから朝早い。お前たちはゆっくり寝てろ」 「ああ、まだ行ってんだ?」 「明日は旨い魚料理だ」 ソロはそろそろ寝るかと立ち上がり自分の部屋へと引き返した。 カツラは背伸びをし、懐かしい我が家を見まわす。そして酒をチビチビと飲みながらくつろいだ気分でタイガがバスルームから戻るのを待った。

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