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第190話 15-16

ゼファーは苛立っていた。自宅に向かう車の中で速くなった呼吸をなんとか落ち着かせる。「あのクソじじいっ!」心の中でソロに対して悪態をつく。ゼファーはソロの自宅の窓の修理に行ったときのことを思い出していた。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「おじさん、窓のほうはいいけど、玄関のドアはまた違う部品がいるから。とりあえずって感じで直しているけど、部品が届いたら差し替えにまたくるよ」 「そうか」 「で、カツラはいつ帰ってくるんだ?」 「たしか、二週間後だ」 「それまでには間に合うはずだ。来週には届くはずだから」 「悪いな。俺が留守の時は勝手に上がって直しておいてくれ。鍵、持っているだろ?」 「うん。じゃ、入荷次第連絡するよ」 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 今日はあの日の会話からちょうど一週間後である。ゼファーはソロの携帯に部品が入荷したから今日の早い時間に届け修理すると伝えた。ソロからの返事は [早朝からルファー釣りに行くから勝手に上がってうまくやってくれ。] とのことだった。 今日は午後から予定が埋まっていたため、早く仕事を終わらせようとゼファーは日が昇ってすぐにソロの自宅に向かった。預かっていた鍵を鍵穴に差し込むと鍵は掛けられていなかった。相変わらず不用心だとため息を漏らす。 最近、この辺りでは若いカップルが空き家でよからぬことをしていると専らの噂になっていた。 つい先日も一人暮らしの老婦人の旅行中に若いカップルが家に忍び込み、逢瀬を楽しんでいたのだ。しかし偶然帰宅した老婦人とカップルは鉢合わせてしまい、老婦人は彼らの情事を目撃し、興奮のあまり気絶してしまったとか。 若者たちの間では自分たちの行為が住人にバレないかというハラハラ感を楽しむ者もいて、この出来事は後を絶たなかった。 特に(まち)から離れたソロの家の付近は目を付けられやすい。近隣の者たちは防犯対策を強化していたが、ソロはそんなことを気にする人物ではないので被害にあわないかとゼファーは気にかけていた。 そんなことを思いながらソロの自宅の玄関のドアを開けた。廊下に足を踏み入れしばらくすると、ゼファーは耳を疑った。 「〇&#×××ッ!!」 「****#!」 明らかにあの時の喘ぎ声が聞こえた。声の内容までは聞き取れないが、今まさに行為の真っ最中なのだとすぐにわかった。声は二階からする。どうやらカツラの部屋から聞こえているようだ。「言わんこっちゃないっ!」とうとうやられたとゼファーは思い、こんなバカなことをして楽しんでいる愚かなカップルの現場をここで押えてやると意気込んだ。そして悪ガキどもの退治に向かうため、忍び足で二階に続く階段に足をかけた。 「いいっ!すごい。あっ、あぁぁっ...」 ゼファーは声が近づくにつれ、艶めかしい声を出す声の主に興味が涌いた。女性の割に低いが性欲を煽るなかなかいい声だと思ってしまったほどだ。 「ふっ、ああっ!」 相手の男の声まで聞き、最近すっかりこういうことがご無沙汰のゼファーはそんなにいいのかと軽い嫉妬を覚える。 気持ちを切り替えゼファーは自分の姿を見たときのカップルたちの顔を思い浮かべ、深呼吸をしそっとドアノブに手を置いた。 「はぁっ、ああぁっ...」 激しく喘ぐ声に全くいやらしい女だと思いながらタイミングを見計らう。 バンッ!! 「おまえらっ!ここで何やってる!!ここは人のうちで...」 一瞬の間であったが、ゼファーの心境の変化はこうだ。 まず、絡み合う二人の姿はゼファーが想像していたものとは全く違った。最初に思ったのは体格の大きさから二人はすっかり大人だということだ。 騎乗位で素っ裸で絡み合っていた者たちをぱっと確認すると、上であえいでいる奴は美しいと思った。自然に露わになった裸の体に目を落とすと赤く染まった多数のキスマーク。男なら当然注目する胸の二か所に目をやると...。そこは色を濃くしふくらみ勃っていたが、乳房はなかった。その一瞬理解し、顔を再び確認する。見覚えのある懐かしい顔。透けるような白い肌に整った顔立ち、赤く染まった唇。頬を染め、息を切らしながら艶めかしい瞳でこちらを見つめ返す男は幼馴染であり、この部屋の主であるカツラだった。 次にゼファーは半分パニックになりながらもカツラが結婚したこと、相手が男であることを思い出し、下になっている男の顔を見た。男もゼファーのことを見ていて目が合った。 ゼファーは気まずくなり男の伸ばした手の先に目がいく。男の手はカツラの豊満な白い尻をわしづかみにしていた。 最後にその瞬間ゼファーは今さらながらに理解した。今、二人はセックスをしている、カツラが男に抱かれているのだと。 見てはいけないものを見てしまった感覚といたたまれなさ、恥ずかしさでゼファーは小さな声で謝りながらその場から逃げるように立ち去ったのだった。

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