184 / 215

第192話 15-18

マロンは大学時代につき合い始めたゼファーの彼女だ。彼女はここから離れた❖❖❖出身だが、デザイン系の勉強を履修するため、この街にある大学に通っていた。 ゼファーに夢中だったマロンは、学生時代に長期休暇で帰省したカツラとゼファーの仲を疑い嫉妬していた。カツラはマロンから、「ゼファーはわたしのもので女にしか興味がないから関わらないで」と釘を刺されたぐらいだ。カツラがゼファーに色目を使ったことは一度としてなかったのだが。 そんなマロンがゼファーと別れたことは意外だった。マロンに圧をかけられたカツラはゼファーを絶対離さない彼女の狂気を肌で感じたからだ。 「マロンは悪い子じゃなかったけどねぇ。やっぱりそれなりに外見は必要でしょ?ゼフは頑張ったわよ」 幼い時からカツラを見てきたリリーはゼファーのパートナーにはそれなりの美人かかわいらしい女性を望んでいる。交際期間が一番長いマロンには少し不満があったようだ。 「母さん、もういいからさ!」 カツラとゼファーは青春を共に過ごした一番気心の知れた友人であったが、お互いの恋についての話などしたことがなかった。 そういうことに関してなんでも経験が早いのはカツラだった。しかしカツラの恋愛についてゼファーの耳に入るのは、いつもカツラ本人からではなく人づてからだった。 当時、カツラはフリーの時期がないくらいつき合う相手に困っていなかった。次から次へと相手を変え、その誰とも楽しく過ごしていた。誰にも固執せず、すぐに別れるのがカツラの付き合い方なのだと周りが思うほど、カツラの交際関係は派手だった。 だからと言ってカツラからそのことに関して相談を受けたことはゼファーは一度もなかった。カツラはもともと自分のことはあまり話さない。そのためゼファーも自分の色恋沙汰をカツラにいちいち報告することはなかった。 そのせいか今の会話に何とも言えない気まずさを感じていた。 話に出てきたゼファーのかつての彼女、マロンは結婚願望が強い女性だった。それなりに束縛はあったがそこもかわいいと思え、付き合いはしばらく続いた。 リリーが言うようにマロンは美しいと言える容姿ではなかったが、彼女の性格は明るく、ゼファーは一緒にいて気楽だったので、マロンの容姿に関して全く気にしていなかった。 しかし、マロンがカツラと顔を合わせたときから、彼女が自分の外見について激しく気にするようになってしまったのだ。 そしてなにがそうさせたのか、マロンはカツラとゼファーの仲を疑い出した。いつも通りじゃれあいでとっくみあう二人を見てはゼファーに文句を言うようになった。 カツラに一度告白をしたゼファーにとって、マロンのこの勘繰りはおもしろくないものだった。この街を出たカツラと顔を合わすのはカツラが帰省しているわずかな期間だけ。しかし、ゼファーはマロンとの別れを選んだ。 切っても切れない関係であるカツラのことをマロンに色目で見られ、ゼファーはやり切れなかった。 カツラのことを好きかと聞かれれば好きだし、愛しているのかと聞かれたら答えはそうだ。カツラに抱いている感情は特別で、言葉では言い表せない。 他人には理解し難くとも、自分の中ではっきりと自覚した気持ちをことあるごとに勘繰られ、否定するのは疲れるものだ。 カツラとの関係を気にしない女性は大勢いるはずだが、ゼファーは今はまだ他人と深い関係を築く気分にはなれていなかった。そのためその後、ゼファーは数人の女性と付き合いはしたが、マロンほど長く続くことはなかった。 そんなゼファーの気持ちをよそに、カツラとリリーは気軽に話を続けている。 「人生なにがあるかわからないしな」 「そういうカツラはどうなの?相手には困らないでしょ?」 「聞いてない?俺、結婚したんだ」 「ええっ!!」 カツラの言葉に驚かないゼファーを見てリリーが問いただす。 「ゼフ、あんた知ってたの?」 「ああ、ソロさんから聞いた」 「帰ってくるって聞いていたけど...。それじゃ結婚の報告で?」 「そ」 カツラの表情は晴れやかだ。幸せオーラのせいか余計に魅力的に見える。 カツラの結婚相手が男だと聞いたらリリーはどんな反応をするのだろうか?ゼファーは黙って二人のやり取りを聞いていた。 「また顔見せるよ。その時には連れてくるからさ」 カツラが店から立ち去りながら言った。そんなカツラにリリーは後についてなんとしてもカツラの結婚相手の情報を聞き出そうとする。 「一緒に来てるのね!どんな子よ?やっぱりかわいいの?年下?」 「かわいいよ、年下だ。じゃな」 カツラは肝心なことは伝えずに最後はゼファーに顔を向けて去っていった。 「先を越されたわね。カツラはモテるけど長続きしないからずっと独身かと思っていたけど。あのカツラを射止めるなんて、いったいどんな子かしら?」 リリーは孫が欲しくて仕方がないのだ。ゼファーに「あんたも負けてんじゃないわよ!」と嫌味を言って家の中へと入って行った。 まだ昼間なのに今日はいろいろあってどっと疲れが押し寄せる。ゼファーは大きなため息をつき遅い昼食を取りに出かけた。

ともだちにシェアしよう!