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第193話 15-19
「かわいいよ、年下だ」
幸せ全開の笑みを浮かべ答えるカツラが脳裏によぎる。あんなデカイ奴のどこがかわいいってんだ??近くのベーカリーショップでパンを買ったゼファーは一人、事務所で遅い昼食をとりながら、先程のカツラとのやりとりを思い出していた。
ゼファーは一瞬だがしっかりと目に焼きついたカツラのパートナーの男の顔を思い出していた。いかにも女受けしそうな精悍な顔立ち。男らしいガタイ。厚い胸板に太くたくましい腕。その手が触れていたのは…。思考がカツラの裸体にいく間際で考えを切り替える。
ゼファーにはカツラのパートナーはどうしてもかわいいと言える存在ではなかった。
「くそっ。どうして...。」カツラとはずっと友人だ。親友だとすら思っている。しかしカツラの婚姻相手が男だと聞き、実際その姿を目にしたときから...。しかもあんな形で目にしたときからゼファーの内心には不満がくすぶっていた。「俺じゃだめだったのかよ!」
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ゼファーが今住んでいる〇●〇●〇に越してきたのはちょうど小学校に上がった年の夏休みだった。住み慣れた町に比べ自然が多い〇●〇●〇は当時のゼファーには居心地が悪く、もといた場所に帰りたいと毎日泣いて親たちを困らせていた。
人見知りだったゼファーは人と関わろうとせず、家の近くで虫を捕まえては一人で遊んでいた。そんなゼファーを心配して我が子が早くこの場になじめるようにとリリーはなにかと世話をやいた。しかしゼファーは放っておいてとリリーのやることなすことになびかなかった。そんなある日、とうとう痺れを切らしたリリーが強硬手段に出た。
「ゼフ、少し車を走らせたところに学校で美術を教えている先生のお宅があるの。あんたのこと話したら、絵を教えてくれるって」
「別に絵なんて好きじゃないし」
ゼファーはいつも通り素っ気ない返事をした。
「いいからいいからっ」
リリーは嫌がるゼファーを無理やり車に押し込み目的の家へと向かった。街を抜け、丘の方に向かうとずっと自然が多い。新緑の香が鼻につき、ゼファーはここに来て初めて自分の越してきた街を客観的に眺めた。
両親が旅行の時に立ち寄り気に入った街で、その時からいつかここに住むことを決めていたと聞いた。
たしかに、ここはゆったりと時間がながれているようでゼファーが今まで暮らしていた町とは雰囲気が異なっていた。まるで物語にでてきそうな街。現実離れしたなにか不思議なことが起きそうな、そんなワクワクした気持ちにさせる魅力をその街は持っていた。
「ほら、着いたわよ?」
リリーに連れてこられた家には大きな柊の木があり、家の感じもおとぎ話に出てきそうな外観で、幼いゼファーは驚きの声をあげていた。
「わぁ...」
「素敵なおうちね。さ、行きましょう」
少し緊張したゼファーは姿勢を正しリリーの後に静かについていく。
「こんにちは」
リリーが玄関のドアをノックすると、家の中から上品な足音がした。
「いらっしゃい。ソロから聞いているわ。どうぞ、中に入って」
玄関のドアが開けられ中から現れたのはゼファーの母よりかなり年上の女性だった。しかし、金髪に青い目のその女性は物腰柔らかく、とても美しい人だった。彼女はこの家に住む美術教師のソロの妻で、名前はアフェランドラと名乗った。
「ソロは学校から連絡があって出かけてしまったの。でもカツラがいるから。一緒に絵を描いていたらきっと仲良くなるでしょう」
アフェランドラに連れられて奥の方の部屋に案内される。家の造りも自分の家とは違い、面白くてゼファーはドキドキした。
アトリエと言っている部屋に着き、中に足を踏み入れるといったいどういう造りになっているのか、そこはとても広々とした空間だった。その部屋には所々にとても綺麗な絵が飾られていて、奥のテラスに続くガラスの開き扉の向かいにはテーブルがあった。そこにはこちらに背を向けてなにかを無心に描いているゼファーと年の近い子供の姿があった。
肩につくぐらいの艶のある黒いサラ髪。もくもくと絵を描くその子供の背中になぜか目が吸い寄せられた。
「カツラ、お友達よ」
アフェランドラの声に振り向いたその子の顔を見て、ゼファーもリリーも息を呑んだ。
「美少女」
カツラと呼ばれるその子を見た瞬間、ゼファーの脳裏にこの言葉が浮かんだ。
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