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第206話 15-31
今日は早速ゼファーの家に酒を持っていき一緒に飲むことになっていた。カツラは家にあるめぼしい酒を見繕い出発の準備をする。
「タイガ、行けそうか?」
「うん、それが...」
言葉を詰まらせるタイガにかカツラが歩みよる。
「どうした?」
「行けそうか、タイガ?」
自分と同じセリフを言うソロにカツラが眉根を寄せる。
「はあ?なんだよ?」
「実は、ソロさんと一緒に釣りに行く約束をしていて。今日は絶好の日なんだって」
「釣りだって?」
ソロとタイガが自分抜きでそんな約束をしていたことにカツラは不快感を表した。そんなカツラにソロが事の経緯 を説明する。
「カツラがいない間に酒を飲んだ時に話していたんだ。条件があった時に行こうと。今日は気温、天気、まさにばっちりなんだ。先に行ってる連中からも連絡がきた。知っているだろう?この時期にルオリぺス湖の水温が下がるのはまれなんだ。いい魚がたくさん集まってくる」
「タイガ、釣りなんてできるのか?」
「だから俺が教えてやるんじゃないか。今夜も旨い魚料理だ」
ソロは用意をしながら楽しそうに話した。カツラはタイガの耳元で尋ねる。
「いいのか?ゼファーの所に行くんだぞ?」
カツラは一緒に行かなくて大丈夫なのかと確認した。昨夜、タイガと話したことを気にかけているからだ。
「大丈夫。友人なんだろ?それに釣りは早く終わるから、終わり次第合流するよ」
カツラはタイガが無理をしていないかタイガの瞳をじっと見た。いまいち確信はないが今さら釣りを中止するわけにはいかないようなので渋々了承する。
「わかった。じゃ、ゼファーの家で合流しよう。ナビに場所は入っているから」
「うん」
大丈夫だ。カツラを束縛することから卒業しないと。タイガは前向きな気持ちで釣りの準備を整える。二人は落ち合う約束をし、それぞれの目的地へと向かった。
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自然豊かな〇●〇●〇は少し車を走らせただけで人の手が入っていない緑豊かな森がすぐ目の前に現れる。
このルオリぺス湖は海と繋がっっているらしく、様々な魚が釣れるとのことだった。特にこの時期、気温が下がると脂ののった魚が海から流れてくるらしく、フィッシングを楽しむ人たちの穴場なのだとソロが教えてくれた。
タイガはカツラの育ての親であるソロにもっと自分のことを知ってほしかったし、彼と親しくなっておくべきだと思い今回の誘いに喜んで応じた。釣りはあまり経験のないタイガであったが、ソロや彼の友人の手ほどきもあり、それなりに釣りを楽しむことができた。周りの人はタイガがカツラのパートナーだと聞くと、「あれは女じゃ満足しないと思っていた。やはり男とくっついたか」とか、「よく射止めた」、「苦労するぞ」などと言いながらも笑顔で祝いの言葉をかけてくれた。
やっぱりよかった。ここに来て。釣りが終わるころにはタイガはそう思うようになっていた。
「なかなかいい腕だ。また機会があったら来よう」
「はい、是非」
ソロは仲間の車で自宅に帰るというので、タイガはソロの車を借りてそのままゼファーの家に向かうことになった。
ゼファーはにらみ合いした相手であったが、カツラは彼を大切な友人だと言っていた。タイガはカツラのためにもゼファーと普通に話せるようにならなくてはと思い前向きな気持ちで車を向かわせた。
釣り仲間たちとの話が盛り上がり、思っていたより遅い時間になってしまった。昼前に着く予定がとっくに昼食の時間は過ぎてしまった。
ようやくゼファーの家に辿り着く。建築関係全般を請け負っていると聞いていただけあって、なかなかしゃれた外観の家だ。高い外壁は白一色で、正面のガラス張りの大きなドアの向こうはブラインドが下ろされ中は見えなくなっていた。
今日は店は休業日だと聞いていたので、家の表側ではなく自宅の玄関に当たる裏側へと車を回す。周りは木製フェンスで囲まれている。フェンス横に車を停め門を開け、敷地内に入る。目の前にある自宅に続く重厚感のある大きな木製ドアが僅かに開いている。
カツラは正確にタイガにゼファー宅の詳細を伝えていた。確かあれが入口だとタイガは深呼吸をした。ドアに近づきドアノブに手をかけた瞬間、わずかに話し声が聞こえたような気がした。
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