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第207話 15-32
嫌な予感がする。第六感がそう思わせるのかタイガは息を吸い込みドアを開け室内に入る。
家の中は壁一面真っ白で、とても広いリビングだ。吹き抜けになっていて、天上が驚くほど高い。入ってきたドアの右手には天上まで続くほぼ壁一面のガラス張りの大きな開き扉。正面にも光を取り込むために大きな窓がある。白を基調にし、座り心地の良さそうな巨大なソファがありとても開放的な空間だ。
奥にはダイニングテーブルがあり、カウンター向こうがキッチンのようだ。カツラたちはここにはおらず、広い空間は閑散としていた。
タイガは耳をすます。やはり人の声がする。どうやら二階かららしい。タイガは二階に続く大きな階段に足をかける。
それにしてもでかい家だ。稼いでいるんだなと改めて感心しながら二階に上がり廊下を進む。すると左側の部屋から勢いよく飛び出してきた一人の男とぶつかりそうになる。まだ成長期の途中、背丈はタイガの胸辺りで顔立ちも幼い。学生だろうか。彼はタイガの顔を少し驚いた表情で見たが、立ち止まることはしないでそのまま階段を駆け下りて家を出ていった。
「なんだ、いったい?」タイガはいったいなにがあったのかと不思議に思いながら廊下を進む。その少年が出てきた部屋のドアは開いたままだ。タイガは部屋の中をそっと覗く。
正面の藍色のソファーにはゼファーがいた。ゼファーは隣にいる者のむき出しになった白い太ももに手を置いていて...。タイガは最初、ゼファーが恋人といるのかと思った。しかし、隣にいる者の顔を確認して一気に頭に血が昇る。
「カツラ!!」
ゼファーの隣に足を組み腰を駆けていたのはカツラだった。ソファーの手すりにもたれ肘を預けたカツラは瞼を閉じまどろんでいる。
そしてカツラは何故かバスローブ姿だ。白い両肩がむき出しで足を組んでいるせいで前ははだけ、太ももが丸見えなのだ。その太ももを掴むようにゼファーが手を置いている。
タイガは瞳の色を濃くし二人に駆け寄った。
「遅かったな」
ゼファーはカツラから手を放し、至って普通にタイガに声をかけた。
タイガは拳を握りしめた手を解きカツラの肩をゆすった。今にもキレそうな自分を何とか落ち着かせながら。
「カツラ」
「ん...?」
カツラがぼーっとしながら瞼を開ける。
「タイガ?」
目の前にいるのがタイガだと気づくとカツラは背もたれから起き上がり瞳をぱっと開いた。
「おまえ、遅かったじゃないか!」
カツラがタイガの肩に手をのせる。カツラからはほのかに酒の匂いがした。
「どういうこと?」
タイガは言いながらカツラのはだけたバスローブを整えた。組んでいる足を解き両足をそろえて閉じさせた。
「なにが?」
いったい何が問題なのかとカツラは首を傾げた。
「服は?」
酒が入っているからかカツラの反応は鈍い。目の焦点が合っていない。タイガは無意識にカツラの両肩をきつくつかんでいた。
「酒飲んで、パンケーキ作ろうとして派手に粉をぶちまけたんだ」
ゼファーが見かねて助け舟をだす。
「は?」
タイガは責めるような目でゼファーを見た。
「カツラはうちのかっては知っているから。勝手にシャワー浴びてこのざまさ」
訝 しるタイガにゼファーが畳みかける。
「こいつは昔からこうだ。酒飲んで酔ってはしゃいで寝る。周りの迷惑なんて考えない。何回面倒見てきたか」
タイガはカツラがこんなに酔ったところを見たことがなかった。酒癖が悪いことも知らなかった。自重していたということか?しかし、気心の知れたゼファーの前では気が緩み飲んでしまった。タイガは今ゼファーに間違いなくマウントをとられたと感じた。どす黒い嫉妬が身の内に渦巻く。
「タイガ、お前を待ってたんだ。アドニスには会ったか?」
カツラはタイガの様子に全く気付くことなく呑気に話しかけた。
誰だよ、アドニスって。タイガは気持ちの整理がつかずイライラしていた。やはりカツラと一緒に来るべきだったと後悔し、今すぐゼファーの前でカツラを抱きたかった。
「すれ違わなかったか?学生みたいなやつ、ダークブロンドの。俺のいとこ」
先ほど廊下でぶつかりかけた奴だとタイガは気付いた。タイガの反応からアドニスという少年に会ったことを理解したゼファーは再びタイガの神経を逆なでする言葉を言い放つ。
「アドニスの初恋はカツラだ。今さっきまで自分の初恋の相手が男だと知らなったんだ。こいつのこの姿を見てまた欲情しかけたぐらいだから。ペタンコの胸見せたときのあいつの顔」
ゼファーは思い出したのかくっくっくっと笑いをかみ殺した。だからカツラのバスローブが胸元まではだけていたのだ。
「カツラ、お前の足は目に毒だぞ。あいつ、俺がいなかったらお前の上に覆いかぶさってた」
「おい、いい加減にしろっ。いったいどういう」
タイガは我慢できずにゼファーの胸倉をつかんだ。
「おい、なにムキになってんだよ?」
「こらこら、二人とも、なにやってんだ」
酒のせいで自分が原因と理解できていないカツラが間に入る。タイガは我慢できなかった。今のこの状況もカツラの過去を知らない自分も、ゼファーの存在も。
タイガの中の理性が吹っ飛ぶ。仲裁しようと自分の肩に置いたカツラの手を取り強い力で引き寄せる。そしてそのまま唇を押し付け舌を入れた。
「んっ」
ゼファーが目の前にいようがお構いなしでタイガはカツラに濃厚なキスをした。腰を強く抱きよせ顔を押える。カツラも酒に酔っているせいかタイガのキスに素直に応えていた。タイガに腕を回し自らも舌を激しく絡める。
ゼファーは目の前で見せつけられる熱いキスに愕然とする。カツラのこんな姿は見たことがなかった。つき合っていた女と軽く唇が触れるくらいのキスをしているところは見たことがあったが、人前でこんなことをするような男ではなかった。今のカツラはこの大男の言いなりだ。
「ちっ!」
ゼファーは舌打ちをし席を立ち部屋から出ていった。
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