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第216話 15-41

朝の時間は有意義だった。 「恋人は一晩一緒に過ごせばだいたいうまくいく」 フジキが以前言っていたことをタイガは思い出していた。 「一晩」ではないが、タイガとカツラは濃密な恋人の時間をすごした。身も心もさらけ出し、お互いを激しく求め合った。 その後二人はイチャイチャと朝食を取りながらゆっくりと話をすることができた。カツラはタイガがヤキモチを妬くことに関して気にしないと言った。その流れでタイガがカツラを激しく求め抱くことも。タイガが欲求を我慢して疲れ、自分から離れていってしまうほうが嫌だと伝えたのだ。 タイガはくだらないヤキモチでカツラに愛想を尽かされるのではと思っていたが、カツラはそんなタイガがかわいく愛おしいとまで言ってくれた。タイガは満ち足りた気分でいた。 ソファに座り、仕事用のパソコンを眺め急用の要件はないかメールをチェックする。すると呼び鈴が鳴った。 「はい?」 ドアを開けるとそこにはゼファーが立っていた。タイガは一瞬息を止めゼファーを睨みつける。 「そんな鬼みたいな顔すんなよ。これっ」 ゼファーはタイガの胸にレモンタルトを押し付けた。彼の母リリーの手作りタルトだ。そしてずかずかと家の中に入った。 「カツラは?」 「寝てる」 「だろうな。ってことは仲直りできたのか?」 どういうことだ?ゼファーはカツラに気があるのではないのか? タイガが押し黙っているとゼファーはソロの家のかってを知っているのかキッチンに入りポットで湯を沸かし始めた。 「タイガだっけ?お前もコーヒーでいいよな?」 「何しに来たんだよ?」 わざわざ母親の手作りタルトを届けに来ただけとは思えない。タイガの質問にゼファーはあっさりと答えた。 「お前と親交を深めるため?」 自分でも疑問に思っているのかゼファーは疑問形で答える。わけが分からずタイガがゼファーに問いただす。 「お前、カツラが好きなんだよな?」 「当然だろ。長年の友人だからな」 「キスしたじゃないか!」 はぐらかされているようでタイガは今朝のことを口にした。 「想像してみろっ。あんなのが物心ついたころからずっとそばにいるんだぞ。しかも俺はあいつと風呂に入るまで男だとは思っていなかった」 それはカツラのことを女子だと思っていたということか。たしかに写真で見た幼いカツラは少女に見えた。声変わりをしていないのなら区別はつかないだろう。 「男だとわかってもあいつに抱いた気持ちは変わらなかった。だからって俺はゲイじゃない。今までつき合ったのは女ばかりだ。それはこれからも変わらない」 「じゃぁどうして...」 「あいつは特別枠なのさ。正直言うとカツラが男を相手にするとは思わなかった。だから振られた俺としては複雑なわけ」 「カツラがつき合った男は俺だけじゃないだろ」 「は?」 「知らないのか?」 「あいつ、男もいけるのかよ?!」 この時までゼファーはどうやらカツラも自分と同じ、基本ノーマルで、タイガだけが特別なのだと思っていたらしい。ゼファーはタイガに背を向け、「なんだよそれ、いつからだよ」とぼそぼそとぼやいている。 「お前は何人目なんだ?」 振り向いたゼファーはこの事実に相当のショックを受けているようで、落胆の色を隠せていない。視線も揺らいでいる。 「そんな人数までは。でもカツラだから...」 タイガはわかるだろうというように最後はごにょごにょと明言はしなかった。 「あーあ、女と一緒かよ。かなりの人数いるな」 カツラの女性関係について、タイガは第三者からの意見を聞くのは初めてだった。途端にタイガのアンテナが反応する。 「やっぱり、関係をもった女性も結構な人数が?」 「聞いてないのかよ?」 ゼファーは吐き捨てるように聞いた。 「大体は...。はっきりしたことはその...」 「2,30人はいたんじゃないか?」 カツラがバイセクシャルである事実が受け入れ難いのか、ゼファーは普段なら答えないであろう質問にもヤケクソな感じで答えた。 「え?今までで?」 意外に少ないとタイガはほっと胸を撫でおろした。 「一年間だ。さすがに50はいってないだろ。一日で別れた奴もいるし。なんせ続かないんだわ」 タイガはカツラから聞いていいたがここまでだとは思わなかった。あまりの衝撃に言葉に詰まってしまう。そんなタイガに気付いたのかゼファーが補足する。 「行動制限、詮索されるの大嫌い。面倒なことは大嫌い。楽しければそれでいい。それがカツラのスタンスさ」 まだあるようでゼファーは話し続ける。 「カツラは外見は華やかで人を惹きつけるけど、つき合っても長続きしないから中等部の最後は付き合っていたのは他校の女子がほとんどだったと思う。ま、それでもあんな美形が彼氏だと自慢できるし、一度は関係持ちたいっていう馬鹿な女子はいたけどな」 タイガは自分の学生時代と全く違うカツラの過去に驚きいまだ言葉を失くしていた。ツバキやカツラ本人の口から聞いていたことであったが。ゼファーは知っているのだろうか?カツラの初体験の相手を。タイガがそのことについてゼファーに聞くべきか迷っていると、顔に出ていたのだろう、ゼファーがタイガに詰め寄った。 「なんか聞きたいことでもあるのか?」

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