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第217話 15-42
胸にくすぶるカツラへの独占欲をゼファーに見抜かれているようでタイガは聞くことをためらった。しかし最終的にはやはりカツラのことは全て知りたいという思いに抗うことは不可能だった。
「カツラの最初の相手って?」
探るように尋ねるタイガの質問が意外だったのかゼファーは目を見開いていた。普段なら聞き流されそうな話であるが、カツラがバイであることへのヤケクソなのか、ゼファーはあっさりとタイガに教えてくれた。
「おそらく家庭教師だろ。カツラが中等部に上がるときに教えに来てたんだ。よく二人でいたからな。まぁまぁ美人だったしカツラのことは気に入ってるようだったから」
「え?14歳ってこと?」
タイガは相手よりもまずその年齢にひっかかった。
「あいつは3月生まれだろ。12歳だ。因みに相手は大学生な」
「はあ!?」
「おそらくと言っただろう。事実はカツラ本人に聞けよ。あいつは自分のことは話さない。俺たちが恋愛について話をしたのは今朝が初めてだ」
「今朝って…」
「そう、お前と鉢会う前」
二人の間に僅かに沈黙が流れる。ゼファーは意を決したようにタイガから目線を離し再び話し始めた。
「お前にはマジらしいな。カツラの初恋だろ。あいつは振られる免疫もないし歩み寄る方法もわからないんだ」
黙ったままのタイガにゼファーが言い放った。
「お前じゃなきゃだめだと俺に泣きついてきた。悔しいが俺はカツラには幸せになってほしい。だから...。あいつのこと…頼む」
最後は囁くように自分の気持ちを伝えるゼファーにタイガは拳を握りしめた。
「カツラのこと、そこまで思っているんだ。俺はお前に負けない」
しかもカツラが自分のことをそんな風に思っていてくれたことに今更ながらに衝撃を受けた。ゼファーから聞いた事実に体中にジンジンと温かい気持ちが染み渡った。
「大丈夫だ。絶対に」
タイガは揺るぎない眼差しをむけ答えた。
ちょうどポットの湯が沸いた。ゼファーがコーヒーフィルターに湯を注ぐ。心をさらけ出して話したせいか、部屋に香るコーヒーの香りは落ち着くものだった。
「他にも聞きたいことあるなら教えてやるぜ。答えられる範囲でだけど」
ゼファーとタイガのいさかいは一時休戦といったところか。
二人は今朝タイガとカツラが愛し合ったダイニングテーブルに向かい合って座り、ゼファーの持参したタルトを食べ始めた。
しばらくすると階段を下りてくる足音がした。
「あれ?ゼファー?」
タイガとゼファーが大人しくコーヒーを飲んでいる姿にカツラが驚きを隠せない様子で声をかけた。カツラの表情はクマもとれすっかりいい顔になっていた。
「よおっ、寝れたか?」
今朝のことなどなにもなかったかのように気軽にゼファーが声を掛ける。
「はは、まぁ…」
カツラは愛想笑いをしながらタイガの隣の椅子に腰をかけた。
「おばさんの?」
「ああ、食うか?」
「今はいいや。なに話してたんだ?」
カツラがテーブルに肘を着き二人に尋ねた。
「お前の昔付き合った女。初体験は家庭教師の大学生だろ?リールだっけ?」
「リース。彼女じゃない。キスはされたけど」
「マジかよ?」
ゼファーの読みは外れたらしい。カツラから事実を聞き出すことができるのだろうか。二人の会話の先をタイガは黙って見守る。
「そんな話してたのか?」
カツラはそんなくだらないことを呆れた様子だ。
「お前の相方が知りたいんだとさ」
ゼファーの言葉にカツラの表情がさっと変わりタイガを見た。
「知りたいのか?」
「その...。興味はあるよ。カツラのことだから」
カツラはなにか言葉を発しかけたが声になって出ていない。ここで言うべきか躊躇しているのだ。しかし瞼を一瞬閉じると意を決した様に口を開いた。
「俺の初めては中等部二年の冬。相手は…。相手はゼフのいとこのカルミアだ」
「ええっ!!」
あり得ない人物の名だったのかカツラの告白にゼファーは絶句した。
「だから言いたくなかったのに」
カツラは眉根を寄せていた。
「カルミアはそれで俺ん家に来なくなってたのか!!つき合ったんだよな?」
「いや。だって住んでる場所が離れているじゃないか」
なにをバカな質問をとでも言いたげな返事。カツラの言葉に二人とも押し黙る。
カツラの素っ気無い答えが容易に想像でき、タイガもゼファーもならばなぜ関係を持ったとは聞けなかった。
「いとこが?」
イメージがわかないタイガが確認するように呟いた。
ゼファーからカツラの初体験がもっと早い年齢で経験済みだろうと聞いていたタイガは、カツラから聞いた事実に少しだけほっとしていた。タイガと比べると、かなり早いことは早いのだが。
「アドニスの姉貴だ。俺たちより5つ上。やっぱりカルミアからか?」
「まあな…」
カツラは目だけをゼファーに向けて答えた。
ゼファーがカルミアからしつこくされたのか詳細を聞き出そうとしたが、カツラはよく覚えていないと口にした。あまり詳しく答えたくないようだ。
今知った事実にタイガは驚いていた。ゼファーのいとこたちは兄弟そろってカツラにやられたということか。タイガは二人に無関心なカツラの態度を見て彼らに同情した。そして自分がどれだけカツラにとっては特別なのかはっと気づいた。
「言いたくなければ言わなければよかったのに」
タイガはカツラを試すつもりで意地悪な言い方をした。そんなタイガのことを不機嫌な顔で見つめカツラが言った。
「お前が聞きたがったんだろうが」
「俺にも秘密にしてればいいだろ」
カツラが目を見開いた。そしてテーブルにあるタイガの手に触れる。
「そんなこと...。できるはずがない」
はにかみながらタイガを見つめ呟くカツラ。カツラの瞳にはタイガしか映っていない。その姿はタイガのためなら何でもする、お前に夢中なのだと無言で語っていた。
ゼファーは目の前でいちゃつかれ思い切りテーブルに手をつき立ち上がった。まだ淡い失恋の痛手が胸をチクリと刺す。
「そろそろ帰るわ」
「そうか?」
ゼファーを見送るためカツラが立ちあがる。
「車、取りに来いよな」
ゼファーはそそくさとソロの家をあとにした。
再び二人きりになったタイガとカツラはお互いの目線を重ね今同じ考えであることを確認する。そして手を取り合いカツラの部屋へと向かった。
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