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第218話 15-43
今日は散歩がてらゼファーの家に行き、そのまま車で空港の南側のビーチに行くことになっていた。ビーチをただ散策するだけだが、久しぶりの海にタイガはウキウキしていた。
「結構綺麗な海なんだろ?よく泳ぎに行ってたのか?」
朝食後二人で徒歩でゼファーの家に向かう。普通に歩いても30分以上はかかる道のりだ。しかし好きな人と話をしながら歩く道のりは苦でなかった。
「川で遊ぶ方が多かったな。海までは距離があるし」
カツラは伸びをしながらタイガに顔を向け話し続ける。
「もう少し暖かければ泳ぐこともできたんだけど」
「またその時にこればいいさ」
タイガはカツラに手を差し出した。カツラは微笑みタイガの手を取り手を繋ぎ歩いていく。日差しは柔らかく気付けばゼファーの家が見えていた。
「鍵、大丈夫?」
「うん。ゼフに一言声かけてくる」
カツラが一人、ゼファーの自宅へと入っていった。タイガはカツラに渡された鍵で車を開け助手席に座った。数分すると、ゼファーと一緒にカツラが出てきた。
「タイガ、ゼファーも一緒に行くって。いいか?」
え?タイガは心の中で呟いた。それははっきりとした否定の気持ちだった。
「俺たち仲良くするんだもんな?」
「別に...構わないけど」
タイガはこの場の空気を読み渋々了解する。タイガの返事にカツラの顔がぱっと華やいだ。
「よし。じゃ、早速出発するか」
カツラの言葉にゼファーも車に乗り込む。
カツラの気持ちがゼファーにないことは確認済みだが、タイガはカツラと二人で過ごしたかった。初めてカツラと行く海だ。邪魔者が入ったと思ったが、ゼファーはカツラの親友なので無下 にはできない。タイガは心の中で小さなため息をついた。
車で30分ほど走ると海外線が見えてきた。コバルトブルーの海。海と反対側はソロが言っていたように開発が進んでいるようで、高層ビルやホテルがたち並んでいた。大きなショッピングモールもありそうだ。
開けた駐車場に車を停める。この時期海に入っている人はサーフィンをする人だけなのか停まっている車はまばらだった。
「向こう側に観光客用の店がある。ビーチ歩きながら行ってみるか?」
「いいな、行ってみよう」
ゼファーは地元なのでこの辺りのことも詳しかった。その点ではいてくれて助かったが、やはりカツラとの距離が近い。カツラはタイガにもわかるよう説明をしてくれるが、昔の友人の話など、二人にしかわからない会話が続きタイガの気持ちは沈んでいった。
タイガは穏やかな海で戯れる人たちを見ながら歩いていた。
側 から見たら、今の3人はどういう関係に見えるのだろうか。タイガはカツラのほうを見ないでカツラの手をとった。カツラは驚いたようで一瞬視線をタイガに向けたが、拒絶せずそのまま手を繋ぎ返した。触れ合った手から、お互いの気持ちが再確認できる。次第にタイガのモヤモヤした気持ちは霧が晴れたようにさぁっとひいていった。
しばらくすると、キッチンカーが至るところで店を開いていた。人も集まり、すぐ食事ができるように簡単なテーブルとイスが並んでいる。ビーチに来た人達がそれぞれに好みのものを買いランチを楽しんでいるようだ。
「そろそろ昼か。俺たちもなんか食うか?」
ゼファーの目線がタイガとカツラの繋いだ手にとまった。
「そうだな」
当然カツラはそのことを隠すわけもなく今だしっかりとタイガと手を繋いだままだ。
「適当に見繕ってくる。席、取って待っててくれ」
ゼファーは自分が場違いな気がして、そそくさと二人の元から立ち去った。
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