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第219話 15-44

「いい匂いだ。食欲がそそられる」 タイガが待ちきれない様子で目を輝かせた。こういうところは本当に子供っぽい。カツラはそんなタイガの様子にひそかに胸をときめかせた。 「タイミングがよかったな。毎回店が出ているわけじゃないから」 カツラはタイガの手に自分の手を重ね指を絡ませ握る。こんな他愛のない時間ですら幸せでたまらない。 数分するとゼファーが両手に飲み物とロングウインナーを挟んだホットドッグを持って戻ってきた。カツラは運転をしなければいけないのでコーラで、タイガとゼファーは大ジョッキに入ったビール。3人で乾杯をする。ウインナーがアツアツでジューシーでとても旨い。タイガはペロリとあっという間に平らげ、もう一つ食べたくなった。 「俺が買ってきてやる。この店だよな?」 カツラがゼファーが店から持ってきた紙ナプキンを手に取った。そこには店の名前が書かれていた。 「人気店みたいだ。並んでるからわかりやすいはずだ」 「オーケー」 カツラはタイガとゼファーを残しホットドッグ店へと向かった。 ゼファーと二人きりになることにまだ慣れないタイガだったが、意外にこの時間は苦痛ではなかった。この辺りのこと、こういうイベントはよくあるかなど話していると時間はあっという間に過ぎた。地元の者だけあって事情に詳しい。ゼファーの話を聞いてタイガはまた違う時期にカツラと訪れたいと思うようになっていた。 「あいつ遅いな」 カツラが席をたってから30分近くがたとうとしていた。もしかしたら迷っているのかもしれない。 「俺、ちょっと見てくるよ」 タイガはゼファーに店の特徴を聞き席をたった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 目的の店はすぐにわかった。ゼファーが言った通り人気があるらしく、すごい列だ。しかし店員がやり手なのか思いの他、回転が早い。カツラは列の一番後ろに並んだ。 あと4、5人でカツラの番になろうとした時、初めて接客にあたっている店員に意識をむける。キッチンカーから出て注文を取り次いでいるその男を見た時、相手もカツラに気づいた。 「あれ?!カツラさんだよね?」 店員はカツラに近づき声をかけてきた。 「相変わらず美人だなぁ。俺のこと覚えてる?」 彼はカツラが『desvío』で働いてすぐの頃、旅行先で知り合った男だ。確か南国のリゾート地で開放感も手伝って、かなり弾けて遊んだことを思いだした。 男は明るいブロンドに人なつっこいブラウンの瞳。背丈はカツラより少し低いがたくましい肉体で魅力的な外見。カツラより3つ年下で名前はノーザ。ノーザはカツラに会えてたまらなく嬉しいという感じで話し続ける。 「何度も連絡したのに無視だもんな。でもこうして再会できたから、俺たちやっぱり縁があるんだ」 ノーザはカツラの順番がくると「俺の奢りでつけといて」と中にいる店員に告げ、もう一人店員を店の外に出した。どうやらノーザはカツラとゆっくり話すつもりらしい。 ノーザとは違い一刻も早くこの場を立ち去りたいカツラは愛想笑いを浮かべ、返事もそこそこに立ち去るタイミングを見計らっていた。しかし、なかなか話の区切りがつかず、立ち去ることができない。 「ここにも旅行で来てるの?」 「いや。そういうわけじゃ。そろそろ行かないと」 「カツラッ!」 自分の名を呼ぶ声にカツラははっとなり振り向いた。 「大丈夫か?」 カツラを心配して様子を見に来たタイガが話し込む二人を不審に思い声をかけたのだ。そんなタイガをノーザは興味深々で見ている。 嫌な予感がしたカツラが早く立ち去ろうとタイガに促す前に、ノーザがタイガに話しかけてしまった。 「もしかしてここではお兄さんさんと?俺も混ぜてよ!俺、3P全然いけるからっ!」 ノーザの言葉にタイガは真顔で静止した。

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