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第221話 15-46

帰り支度の前にタイガは一人レストルームに向かった。今は少しでも一人になり気持ちを落ち着かせたかった。顔を (ゆす)ぎ深呼吸をすると気分が多少和らいだ。 ゼファーの言い分は理にかなっている。くよくよする方がおかしい。気になることはまた今夜ベッドで詳しく聞こうと気分を切り替える。出入り口に近づくと、よく通る声がレストルームの外から聞こえてきた。 レストルームのすぐとなりがゴミ収集場になっていて、今日店を出している業者が数名出入りしているようだ。ガヤガヤとする中、一人目立つ声がした。低いがよく通る声。そちらに目をやると、いかにも女受けしそうな自信に満ちた中年男性がいた。 年は40手前だろうか?しかし体は鍛えられ見事な筋肉美をしている。肩にかかるウェーブがかった褐色の髪に同じ色の瞳。日焼けした褐色の肌に彫りの深い端正な顔立ちだ。Tシャツの胸元から胸毛が見えており、男の色気を放っている。 タイガは彼から視線を外し歩き出した。すると、数歩歩いたところで、背後から声をかけられた。 「おにいさんっ!さっきの」 タイガは体を硬直させ振り向いた。人懐っこい笑顔で声をかけてきたのは、ノーザとかいうカツラと肉体関係のあった男だった。 「もう帰るの?」 「カツラさんは?」 ノーザは小さな声でカツラのことを聞いてきた。タイガが訝しみ黙っていると、先程見ていた魅力的な中年男性が歩みよってきた。 「ノーザ、どうした?」 「あ、社長」 社長だって!タイガは驚きと怒りで社長なる中年男性を凝視する。 まさかこの男はカツラが今し方話していた、ノーザの上司ではないのか。ということは、こいつもカツラを抱いたことになる。 無意識に目の前の毛深い男に好きなように抱かれるカツラを想像してしまう。カツラの滑らかな白い肌に濃い体毛の体躯(からだ)が絡みつく…。タイガは途端にまた気分が悪くなる。 「お客さんですよ。うちのドックを気にいってくれて」 ノーザは当り障りのない説明を社長にする。 「そうか。またご贔屓に」 男はタイガに接客用のとびきりの笑顔を見せ去っていった。 彼もカツラのことを知っているのにその件にノーザは触れなかった。タイガが不思議に思っていると、聞きもしないのにノーザが勝手に説明し始めた。 「社長はカツラさんにべた惚れだったんだ。男は初めてみたいだったけど余程よかったんだろうなぁ。カツラさんに振られた後は荒れて大変でさ。俺とカツラさんの関係を知ると3Pまで持ちかけてくるんだもんな」 タイガは帰す言葉が見つからず口を閉ざしていた。 「結局、俺もカツラさんに振られちゃったけど」 「理由は?」 「え?」 「君が振られた理由」 「うーん…。カツラさん、旅行に来ていて。最初から誰かと付き合うつもりはなかったっていうか。結構派手に遊んでいたから俺もヤキモキしたなぁ」 「派手に?」 「毎晩相手とっかえひっかえ...。あ!こんなこと、言ってよかったのかな」 「大丈夫。カツラからは聞いているから」 内心穏やかではなかったが、タイガはカツラのことは全て知りたかった。ノーザからも情報をある程度引き出そうと冷静な振りをする。 「そっか。ならよかった」 しかし今頃タイガがカツラの伴侶であることを強く意識したためか、過去に関する話に対してノーザの口調が重くなる。昔話を切り替えて今これからの話を始めた。 「マジで一緒にどう?俺、男はカツラさん以外は無理なんだよね。なんせ俺の童貞奪った人だし…。最高に美人だし。フェラもよかったなぁ。肌なんて女より綺麗なんじゃないかと思う。アソコの締まりもいいし。お兄さんもそう思わない?」 タイガが気を悪くしないと判断したからか、ノーザは遠慮なかった。情報を聞き出そうとはしたが、聞けば聞くほどノーザとカツラがセックスした事実を突きつけられる。 「悪い。もう行かないと」 これ以上はタイガのメンタルが無理だった。 「あ、じゃこれ」 ノーザは店の連絡先が書いてある名刺のようなカードをタイガに手渡した。 「その気になったらいつでも連絡して」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― タイガはノーザの話にまた嫉妬を感じ、気持ちを落ち着けるためにゆっくりと車までの道を歩いていた。 「童貞を奪った」、「フェラもよかった」、「アソコの締まりがいい」って…。その言葉が妙にリアルで生々しく、タイガは打ちのめされていた。 セックスをしたんだ。俺たちがするようなことをノーザともしているのは当たり前のことだ。そしてあの社長とも。 タイガの足取りはどんどん重くなる。 「お前大丈夫か?」 車の前で待っていたゼファーが先にタイガに気づいた。 「タイガ?」 タイガの表情は明らかに暗い。カツラが気づかないはずがなかった。 「あいつ、面倒な奴だな。大丈夫か?」 ゼファーがカツラを心配し耳元で囁く。 「ごめん、ちょっと気分悪くて」 「帰り道、休んでろ。着いたら起こしてやるから」 カツラはタイガを思いやり優しく声をかける。 「うん」 タイガはカツラを自分の方に抱き寄せ抱きしめた。ゼファーがいるが関係なかった。カツラはタイガにされるがまま。タイガに抱きしめられると瞼を閉じ自分もタイガの背中に腕を回す。そしてトントンと子供をあやすように優しくタイガの背中をたたいた。 しばらくして体を離す。目の前には美しい男が不安気な優しい目でタイガを見ていた。 ゼファーは心配したにも関わらず見せつけられ、やれやれといった感じで先に車に乗り込んだ。

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