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第222話 15-47
カツラがエンジンをかけまさに車を出そうとしたとき、タイガははっとして助手席の背もたれからがばっと身を起こした。
「タイガ、どうした?」
カツラが少し驚いた様子でタイガに尋ねる。
「携帯忘れた。ストルームに」
「ええっ!面倒癖くせえ奴だな。さっさと取って来いよ?」
今日一日でやはりタイガという男は面倒臭いと実感したゼファーが言い放った。
「俺が行ってくる。タイガは休んでろ」
カツラはタイガから携帯を置き忘れた場所を聞き出し、車をさっとおりレストルームへと向かった。
「お前、あんまいじいじしてるとカツラに愛想つかされるぞ?」
助手席の背もたれに身を預け物思いにふけっていたタイガはゼファーの言葉に再びがばっと身を起こした。
「カツラがなにか言っていたのか?」
ゼファーは肩をあげ「さぁ」という素振りを見せた。タイガは迷ったが先ほどのレストルームでの出来事をゼファーに話した。
「はぁ...」
ゼファーは片手の甲を額にあてため息をついた。
「カツラは際限ないからな。童貞奪った奴だって他にも大勢いるだろ。バージン奪ったっていうのも同じだ」
タイガはゼファーにまたもトドメの言葉を指される。
「嫌なら別れるしかないな。過去は変えられない」
ゼファーが吐き捨てるように言った一言にタイガはきっとゼファーを睨みはっきりした口調で言い返す。
「絶対に別れない!気持ちを整える時間が必要なだけだ」
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カツラはタイガが先程までいたレストルームに着いた。
しかし携帯は見当たらない。数回同じ場所を見て回ったが見つけることができず、誰かに持ち去られたのかと諦め車に戻ることにした。
タイガ、がっかりするだろうな。カツラは肩を落とし明日は早速新しい携帯を見に行かなければと思いながら歩き始める。ふと前を見ると視線の先に真っ直ぐに自分を見つめる男がいる。
「カツラか?」
自分の名を呼ぶ男をよく見ると、そこには懐かしい顔があった。
「エナミオ...」
エナミオはノーザの上司。過去、カツラと関係を持った男であり、先程タイガとニアミスした人物である。
エナミオはカツラに近寄り、なんの躊躇 もなくカツラの肩に触れ伸びた長めの前髪を指でといた。
「全く変わってないな。相変わらず美人だ。余計色っぽくなったか?」
「店出してるんだって?」
カツラはエナミオから距離を取り、彼の手からそれとなく逃れた。
「ああ。来てくれたのか?サーフィン教室もやってるんだ。俺は個人的に朝一でやってる。一緒にやらないか?昔みたいに」
話ながらも距離を詰め、エナミオはカツラの腰に慣れ慣れしく腕を回していた。
過去、エナミオと知り合ったとき、カツラはエナミオからサーフィンを少しだけ教えてもらった。サーフィンの後は二人で激しく肉欲をぶつけあい、濃厚な時間をすごしたのだ。
しかしそれはもう過去の話だ。カツラはエナミオの腕からのがれ話をそらす。
「あの人は?結婚したんだろう?」
「カツラ。彼女とは婚約していただけだ。お前が嫌なら別れるとあの時も言った」
エナミオは当時女性の婚約者がいるにもかかわらず、カツラと関係をもった。当初エナミオは自分はフリーだと嘘をついていた。
カツラはエナミオとは遊びだったが、面倒なことに巻き込まれるのは嫌だった。そのため、婚約者がいると知り即エナミオとは別れた。遊びとはいえ関係を持つ相手はフリーと決めていたからだ。それでカツラはノーザと親しくなった。
「別れたんだ。なんと今は×2だ」
「開き直って言うことか?俺も結婚したんだ。今新婚だ」
「女か?」
「どっちでもいいだろ?サーフィンはしない」
カツラが話はこれで終わりとくるりと踵 をかえして歩き始めるとエナミオはカツラの腕を掴んだ。そして一気にまくしたてる。この機会を逃さんとばかりに。
「カツラ、他の男じゃダメなんだ。男はお前だけみたいだ。はっきり言って女よりよかった。お前にまた包まれ締め付けられたいんだ。頼む」
カツラは振り返り信じられないという目でエナミオを見た。
「カツラ...」
エナミオがカツラの腕をぐいと引きよせ顔を近づけてきた。
カツラは護身術の体勢を取る。
♪~♬♬~♩、♪~♬♬~♩、♪~♬♬~♩、♪~♬♬~♩、
するとエナミオからメロディーが聞こえた。それはタイガの携帯の着信音だった。二人は突然のメロディーのため動きを止めていた。はっとしてカツラがエナミオに尋ねる。
「携帯、持ってるだろ?探していたんだ。返してくれ」
「携帯?」
エナミオは思いあたりズボンのポケットから携帯をとりだした。それはやはりタイガの携帯だった。
「これか?」
「そうだ。助かっ」
カツラが携帯に手を差し出すとエナミオはさっと携帯をカツラの手の届かないようにした。
「これ、お前の?」
「そうだ。返してくれ」
「いいぜ。キスしてくれたら返す」
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