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第223話 15-48

エナミオは勝ち誇った目でカツラを見ていた。カツラが自分の言う通りにすると思っているようだ。カツラはエナミオの卑怯なやり方に辟易し、さっさとこの場を立ち去ろうと言葉を発しようとした。その時、エナミオの視線が動くのが分かった。 カツラが後ろを振り返ると、そこにはタイガとゼファーがいた。 「携帯はもういいよ。帰ろう、カツラ」 タイガの瞳は濃く、彼の言葉はカツラにだけではなく目の前にいるエナミオにも向けて発せられていた。それを証拠にタイガの視線は真っすぐにエナミオを捕らえている。 タイガの敵対心むき出しの視線にエナミオはピンときた。 「カツラ、こいつがお前の相手か?」 「カツラ」 エナミオの言葉を遮るようにタイガがカツラの名を呼ぶ。タイガはエナミオを相手にする気はないようで、カツラにここを立ち去るよう促した。カツラが一歩タイガの方に足を向けた瞬間エナミオは言い放った。 「カツラ、アレは最高だったよな?覚えてるか?高い酒をお前の尻にかけてやった時はめちゃくちゃ興奮してたよな?」 このままカツラと終わりにするつもりのないエナミオはタイガを挑発するためにカツラとのかつての情事をばらした。内容が内容なだけにカツラはタイガの顔色を伺おうとするが、タイガは既にエナミオのそばまで行っており、エナミオの耳元でなにか囁いていた。タイガの行動にカツラの胸は早鐘のように鼓動を打っていた。 カツラとゼファーが見守る中、エナミオの勝ち誇った笑顔が途端に凍り、無表情になる。タイガが何を言ったのか、今やエナミオは放心状態になっていた。 タイガはそのまま振りかえりカツラに「行こう」と言ってカツラの手を取り歩き始めた。タイガの携帯を手にしていたエナミオの手は力が抜けいつでも携帯は取り戻せそうだ。そのことに気付いたゼファーがエナミオに近づき手にしている携帯をさっと奪った。 「おっさん、ダサいことすんなよ。これも泥棒だぞ?」 ゼファーもエナミオに言葉を吐き捨てタイガとカツラの元へと急いだ。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「タイガ...」 「ん?」 カツラを見るタイガの瞳は普段の色を取り戻していた。カツラはエナミオが言ったことについてタイガがどう思っているのかが気になった。今までのタイガなら気にしているはずだと。 エナミオが言ったことは事実だった。カツラはタイガにどう説明しようかと高速で頭を働かせていた。 「えと...」 しかし、タイガの名をよんだもののなにをどう話していいのかわからなかった。 「思い浮かばなかったな。俺たちもやってみよう」 カツラの心配をよそにタイガは軽快に言う。 「え?」 「酒。今度やってみよう?」 カツラは驚きのあまりタイガの顔を見つめる。タイガは自分たちのセックスの時にも酒を用いてやってみると言っているのだ。カツラはいつになく冷静なタイガが心配になった。そして気になった。タイガはエナミオにいったいなんと言ったのか。 「タイガ、あいつにはなにを言ったんだ?」 「ああ、あれ?」 タイガがカツラに顔を寄せてきた。カツラはそうされるだけでドキリとする。カツラのそんな思いを知らずにタイガが耳元で囁いた。 「俺は中出ししかしたことがないってね」 「タイガっ」 「はははっ」 エナミオの敗北感一杯の顔に満足したのかタイガは朗らかに笑った。 「おーいっ!携帯取り返したぞっ」 ゼファーが後ろから駆けてきた。ゼファーの言葉通り、手にはタイガの携帯が握られていた。 「お前、おっさんにガツンと言ったんならこれ忘れんなよ。放心状態だったぜ。なに言ったんだ?」 「うちの会社はでかいから、あんたの会社なんてすぐつぶせるって言ったんだ」 タイガはカツラに言ったこととは違う内容をゼファーに伝えた。 「お前も大概姑息だな」 ゼファーはため息をつきながら奪い返した携帯をタイガに手渡した。 「カツラ、気をつけろよ?俺たちがいかなかったらやばかったんじゃないか?」 ゼファーはカツラの戻りが遅いので、心配したタイガと二人でカツラを迎えに行くことになった経緯(いきさつ)を話した。 「平気だ。俺、護身術やってるから。ちょうど技をかけようとしたところだった」 「護身術?!だから身のこなしが上手いわけか!」 「でもありがとう。タイガ、ゼファー」 カツラはタイガとゼファー二人の肩に腕を回した。三人で肩を寄せ合いながら歩く。ひょんなことから奇妙な連帯感が生まれたようだ。大切な人を思う気持ちは同じ。 タイガはカツラの親友のゼファーとうまくやっていけそうな気がした。ゼファーもまたカツラの伴侶のタイガとなんとかやっていけそうな気がしていた。

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