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第225話 15-50

カツラの育った〇●〇●〇ですごすのも残り数日となった。 今日は面白い場所に連れて行くとゼファーが言い出し、タイガはカツラと一緒に今夜も開発が進んでいる空港の南側に行くことになっていた。 それまではカツラと二人、のんびりと自宅ですごすことにした。リビングで二人、体を寄せ合いソファーに座り手を触れ合いながらとりとめのない話をしていると、タイガはまたカツラ抱きたくなってきた。そろそろニ階に行こうと提案しようとしたら、アトリエからソロが出てきた。 「カツラ、これお前がもっておくか?」 ソロが近づきながら手にしたリングケースをカツラに差し出した。 「これは?」 受け取りながらカツラが尋ねる。カツラの手に納まったベロア生地に包まれた漆黒のリングケースはキラキラと輝くビジュー素材で縁取られている。趣味の良いリングケースにタイガは注目する。 「アイリスとシオンの結婚指輪だ。サイズが合わないからお前たちがつけるのは無理だろうが。形見にな」 カツラは受け取ったリングケースを開けた。中には二つのマリッジリングが納められていた。 普通のリングとは少し違う。よく目を凝らして見てみると、細いリングには黒い宝石がライン状にはめられている。美しいリングだ。 「このリングには黒翡翠が使われている。魔除けだそうだ。シオンの家に代々伝わる宝石だとか」 ソロがリングに使われている黒い宝石の説明をした。 カツラの父、シオンの家に代々伝わる宝石という言葉にタイガは興味を惹かれた。タイガは不思議に思いながら二人の話を聞き続ける。そんなタイガの様子に気付いたのか、ソロが話し始めた。 「シオンの家はまじないをやっていてな。きな臭い連中だと学校で噂になっていた」 「まじない...ですか?」 カツラの父シオンの家業にタイガは意表を突かれた。カツラも初めて聞いたようで驚いた表情をしている。 「正確にはシオンの祖母がやっていた。シオンは両親が他界して祖母に育てられていたんだ。なんでも祖母には不思議な力があるとかないとか。それでシオンも嫌な思いもたくさんしたとは思うが」 カツラの母、アイリスは美人で明るくみんなからの人気者だった。そんなアイリスが周りからさげすまれていたシオンと恋に落ちたことに当初はソロも含めて周りがおおいに驚いたものだ。ソロは昔を思い出しながら話し続けた。 「閉鎖的なばあさんで結婚するまで苦労した。それでもカツラのことはよくかわいがっていた。覚えてるか?」 「いや...。全然」 カツラはリングに目を落としながら話した。記憶をたどっているのかもしれない。ソロはカツラの返事を聞きふふふと笑った。 「だろうな。赤ん坊だったからな。その黒翡翠はそのばあさんが大切にしていた宝石なんだ。価値は高いものだから大切にしまっていなさい」 「はいはい」 ソロの話を聞いてカツラはなにか思うことがあったのか、再びリングを見つめた。そして大きい方のリングを手に取り自分の左手薬指にはめる。それはカツラの父親が生前身に着けていたリングだ。カツラの指に違和感なく納まった。細く長い白い指に黒翡翠のリングが美しく煌めく。 「タイガの指は俺よりごついからこのリングは無理だな。持っておくよ。俺たちのマリッジリングは一緒に決めよう?」 カツラがリングを外し、リングケースにしまいながら言った。 「うん」 カツラの両親の大切なリングだ。タイガはリングケースを閉じるカツラの手に自分の手を重ねた。 「今夜は出かけるのか?」 「ゼフと一緒に。夕飯はいいよな?」 「18時すぎに迎えに来るって言っていたので」 タイガもカツラの後を引き継ぎソロに伝える。 「そうかそうか。若い者同士で楽しんで来い」

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