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第228話 15-53

「カツラが女装したって…」 タイガはカツラがいない間にゼファーから当時のことを聞き出そうと話しかけた。 「あ?学祭のときのか?」 「カツラのアルバムにはなかった」 タイガはカツラから見せてもらったアルバムの内容を思い出していた。学園祭の写真は何枚か目にした。しかしカツラが女装した写真は一枚もなかった。カツラのことは見逃すはずがない。女装の写真があったなら、その時に気付いていたはずだ。 「あいつ、嫌がっていたからな。俺のところにはあるぜ」 タイガはその写真を見たいと思った。タイガはすぐに表情に出る。そんなタイガの気持ちをくみ取ったのかゼファーが話しつづける。 「そのときはブロンドのロングヘアにブラウンのカラコンをつけたんだ。女子たちが張り切って化粧もしてたな。あれは黙ってりゃわかんねぇよ。まんま女だった」 素顔でも十分美しいカツラだが化粧をすればどのように変化するのかさすがのタイガも想像が追い付かなかった。いったいどのような変化を遂げたのだろうか。 「服も着替えたんだろ?」 「あ?まぁな。でも服は普通にスキニーパンツにレザージャケットだったな。あいつ体形華奢だろ。女性用も普通に着こなしいて女子たちが騒いでたな」 ゼファーは昔を懐かしむようにははっと笑いながら説明した。どうやら服を持参した持ち主本人より服装が決まっていたらしい。足の太さ、長さが違うだの女装させられたにも関わらず女子たちからスタイルの良さに対する妬みの攻撃を受けていたとか。もちろんカツラがそんなことを気にするはずもなく一笑していたそうだが。 タイガはカツラの女装姿を一人想像した。高等部の頃だから今より少しあどけなさがあるはず。女性がだめなタイガだが、男のカツラの女装姿にはおおいに興味をそそられた。ずっと押しだまるタイガにゼファーがつっこむ。 「見せてやるよ、その写真。お前が帰るまでにな」 今やすっかりカツラへの強烈な執着心をゼファーに見抜かれ、半分面白がられている。 その後はチビチビと酒を飲みながら他愛のない話を交わす。程なくしてスタッフルームのドアが開いた。タイガとゼファーが注目していると、先にヘザーが現れる。彼女は満面の笑みだ。 そのすぐ後ろに細身の長身の女性…。ブロンドのロングヘアにはゆるいウェーブがかかっていて、長い前髪はセンター分けにされている。髪の間から垣間見える顔は美しく薄い化粧のせいで、華やいでみえた。 今夜の服装は大胆な黒いタイトミニワンピースだ。綺麗にカットされた長めの半袖は黒いシースルーで、女性よりやや広い肩幅をうまくごまかしている。パットが入っているのか少し膨らみのある胸元までシースルーのデザイン。胸から下は漆黒で体にピタっとフィットし、美しくくびれたウエストとヒップラインを際立たせていた。 真っ直ぐに伸びた長い足を惜しみなく見せ、華奢なハイヒールサンダルがより美脚を際立たせている。今のカツラはどう見ても女性にしか見えない。しかもスレンダーな絶世の美女だ。 タイガもゼファーも息を呑んだ。カツラがタイガを見る。瞳は変わらず美しい翠のままだ。 「なぁに、二人とも。まぬけな顔して」 ヘザーが、込み上げる笑いを噛み締めるようにして言った。 「カツラ…。化けたな。学生時代とレベルが違う」 ゼファーは数年ぶりに目にするカツラの女装姿に言葉が続かない。服のせいなのか年を重ねた結果の色気なのか?今目の前にいるカツラの姿にゼファーはわずかに欲情した。男であることはわかっているが、カツラがもつ美しさ、服装のためにはっきりとわかる身体(からだ)の曲線に自分の男性の部分がざわめいていた。 そして女装したカツラに見つめられたタイガもなかなか言葉が出てこなかった。固まったまま、カツラを凝視していた。 「タイガ?」 そんなタイガに姿を現してからずっと黙っていたカツラが声をかけた。今のカツラの姿はどう見ても女性だが、声は男性のものだ。 「あ、えと…」 タイガにカツラが近づく。歩きかたまで女性らしい。嫌でも長い足と左右に揺れる存在感のある尻のラインに目がいく。カツラはタイガの横に腰を下ろした。 「どうだ?」 囁くようにカツラがタイガに尋ねる。その間、カツラはタイガから目を逸らさない。見つめ返したままなにも答えないタイガに顔を近づけ耳元で再び囁く。 「気に入った?」 顔を離したカツラを間近で見る。タイガはゴクリと生唾を飲んだ。いつも赤く染まっている唇は女性らしいピンク色のルージュがひかれていて、グロスで艶めいていた。形のよい唇が強調され、タイガは今すぐにディープキスをしたくなった。 「すごく…似合ってる」 タイガはようやく言葉を絞り出した。するとカツラの顔がぱっと笑顔に変わった。とても魅力的な笑みだ。そしてタイガに抱きついた。 「カツラっ」 タイガはもちろんカツラのこの行動にゼファーもヘザーもおおいに驚いた。タイガは慌てて自分に絡みついたカツラの腕を離そうとする。よく見ると、カツラの爪は美しい形のネイルアートが施されていた。普段より爪の長さもあるので、ネイルチップをつけているのだ。細く長い指の美しさが余計に際立ち、女性らしさをなおさら印象づけた。 しかもカツラからはいつもはしない甘い香がした。女性らしいが凜としたさわやかな甘さの香だ。タイガは女性が苦手だが、目の前にいるのは男性のカツラなので、どうにもおかしな気分になった。 「なんだよ?いいだろ?今は女性の姿なんだから。しかもここはそんなことお構いなしの店のはずだ」 カツラは同意を求めるようにヘザーに視線を向けながら言った。一連のカツラの行動に呆気にとられていたヘザーがはっと我に返った。 「そ、そうね。ここは異性でも同性でもイチャついていい場所よ。ははは…」 ヘザーは学生時代とまるで違うカツラの態度にとても驚いていた。 自分が知らないだけかもしれないが、付き合った相手に対してカツラからイチャつくなんて一度としてなかった。そんな話、聞いたこともない。 ヘザーはカツラを夢中にさせているタイガを改めて観察し、ゼファーにどうなっているのかと疑問の目線をなげかけた。しかし、ゼファーはもうすっかり慣れっこなのか、肩をすくめるだけだった。

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